強くなりたい、その想い 6

 その後注文した夕食を食べながら、テツのアーカイブを見ている。俺はカレーで、テツは牛丼だった。

 アーカイブを見ながら二人で話をしているが、テツもさっき俺が言ったことを、飲み込めたらしく無理な高望みはしなくなった。冷静な状態だと、無理な状況とそうでない状況の判断もできている。

 後は、これを試合中にできるようにすればいい。


「ぶっちゃけ試合中は、全部、今のはしょうがないって思っていいよ」


「!!!」


 俺の横で牛丼をかきこみながら、むせている


「そんな適当でいいんですか!?」


「試合中はなによりもメンタルが大事だから」


 勝てると思えば勝てるし、負けそうと思えば負ける。勝負の世界じゃ当たり前のことだ。

 むしろ当日は実力じゃなくて、心が強いやつのほうが勝つとすら思っている。それはオフラインでならば、なおさらだ。


「というかさ、そろそろチーム練習の時間じゃない?」


 いつも時間をしっかり決めてやっているわけではないが、だいたい19時くらいからスタートしている。


「そうっすね。じゃあ飯食い終わったら始めてますか」


 そこまで、焦るほどの時間でもないが、テツは今日の成果を早く試したいのだろう。いくら射撃訓練場で練習しても、実践で使えなければ意味が無い。だけどAIMに関しては、一日や二日で身につく物ではないので、日々の継続が必要だ。一方で戦闘中の意識に関しては、すぐにでも変化が出るものだ。


「そうしようか」


「そういえば、ヴィクターさんは、今日どこに泊まる予定ですか?」


「それがまだ決めて無いんだよね」


 忘れていたわけではないが、あまり気にしていなかった。来る前にちょっと周辺地図を調べてたら、宿泊施設も数軒あったので、どれかは空いているだろうくらいにしか思っていなかった。


「まあ、近場にいくつかありますからね」


「テツは家に帰るの?」


「いや、近くにカプセルホテルがあるので、そこに行く予定です」


「あ、そうなんだ」


「いちいち帰るのめんどくさいですし、電車無いっすから」


 たしかに、歩いて帰れる所にあるのなら、テツは手ぶらでいいはずだ。それなのに、バックを持ってきているのを見て、変だなとは思っていた。


「ここ最寄り駅じゃないんだね」


「そうっすね。大学と家の中間くらいです。いうても、もうほとんど大学に行ってないですけど」


「まあ、そうなっちゃうよね」


 テツの過去の話を聞けば必然とそうなるのも仕方がないのかなと思ってしまう。自分に照らし合わせるわけではないが、今夢中になれる物があるのであれば、それでいいと思う。

 ただ、テツの両親の考えとかもあるから、俺からはなんとも言えないが。


「じゃあ、俺も同じカプセルホテル行こうかな」


 カプセルホテルにはいったことが無いので、いまいち分からないが、テツと一緒なら大丈夫だろ。寝るスペースしかない場所というくらいしか知らないが。


「安いんでおすすめですよ」


「何回か行ったことあるの?」


「ここでゲームして終電逃したときとかは行ってましたね」


 そのころから、時間を忘れて没頭していたのか。よほどゲームの才能が有るようだ。


「ヴィクターさん。俺食い終わったんで、部屋に戻りますね」


 テツが器を持ったまま立ち上がり、片手で椅子を押しながら部屋を出ていった。

 俺も、残っているのは後2,3口すぐに食べ終わるので、いったんアーカイブを消し、フォージを起動させる。テツは、もう射撃訓練場にいてAIM練習しているようだ。ここでは出来ないにしろ、普段は合間に筋トレとかして、息抜きをしているのに。今日に限ってはずっとフォージ漬けだ。もう、試合まで時間が残されていないのもあるだろうが、努力することを苦に感じないようだ。

 物事で、上を目指すなら誰もが欲する才能だろう。


「テツ、勝負する?」


 俺もカレーを食べ終わり、いつものチームチャットに入る。


「良いですね。やりましょうか!」


 そういって、同じ訓練所に入る。1対1形式で一つの遮蔽物を隔てて、ひたすら撃ち合う。

 ここではフレンドリファイア(味方にもダメージが入る)機能をONにできるため、きちんとどちらが撃ち勝ったか分かるようになっっている。

 俺も最近は役割的に、銃を構えて凸るということが無いから、わくわくしている。

 そうは言っても、俺だって負けてはいられない。


 二人で煽り合いながら、しばらく続けていると。


「おっはよーございます!」


 タイガがボイスチャットに入ってきた。


「ヴィクターさん、お母さん無事でよかったですね」


 そう言えば、タイガと会ったのは、秋葉原以来か。そうなるとかなり前に感じる。それまでは、毎日一日の半分以上一緒にいたというのに。


「うん、ありがと。迷惑かけてごめんね」


「いえいえ、迷惑だなんて全然」


「準々決勝勝ち上がってくれてありがとうね」


「それに関しては当然ですよ」


 改めて、今こうやってゲームを出来ているのもみんなのおかげだ。


「そういえば、ヴィクターさん今日テツ一緒にやって無かったですか?」


「やってたよ」


「一緒にいるからな」


 当たり前のことのように、テツが言うが絶対にニヤニヤしながら言ってるだろう。

 隣の部屋を見に行きたいくらいだ。


「え? どういうこと?」


 タイガが本当に困惑しているような声を出す。俺が実家から帰って来たばかりだと知っているからなおさらだだろ。


「テツの言葉の通りだよ」


 テツだけだと冗談だと思われるので、俺が補足する。


「俺がお願いして、リアルでコーチング受けてるんだよ」


 タイガが羨ましがる言い方をあえてしている。なんなら小さい声で「いいだろ〜」と追い打ちしている。


「えええええ!!! いいなー! なんで言ってくれなかったの!」


 ここまで、想像した通りの流れで来た。想像通り過ぎて笑えてくる。これはテツがタイガを、からかいたくなる理由もわかるような気がする。


「お前が来たら、俺の練習にならないだろう!」


 それも容易に想像がつく。


「そうだな」


「ただファンボーイがよ!」


 テツは笑いながらそういった。


「僕も今から行きたい! どこいるの!?」


「お前未成年だからだめだろ」


「こんちゃーす」


 いつもどおり一番最後にニシが、入ってきた。


「おいニシ、俺いまヴィクターさんと一緒にいるんだ」


「は? お前また訳の分からんことを。ヴィクターさんは昨日帰ってきたばかりだぞ」


 このあとは、全くもってタイガと同じ流れが再現された。

















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