強くなりたい、その想いは 7
昨日のチーム練習は午前2時頃に終わった。普段ならその後も個人練習をしていたが、今日に限ってはすぐに切り上げた。その後テツと一緒にカプセルホテルに泊まるためだ。思ったよりも圧迫感を感じず、ちょうどいい狭さだった。少し簡素な感じがまた、特別感があってよかった。
シャワー室も、寝どこも綺麗で居心地がよく、これで3000円なら十分すぎる物だった。
その後昼前ごろまでぐっすり寝ていた俺は、目が覚めスマホを見るとテツから「起きたら連絡下さい」と入っていた。昨日の夜にシャワーを浴びたが、どうせならともう一度浴びてから、テツに連絡を入れた。
その後一緒に近くのラーメン屋で食事をしてから、またネットカフェに向かう。
どうやら今日は店長さんは休みのようだったが、顔パスで中に入れてもらった。
「じゃあ、また昨日と同じ流れで行きますか」
「おっけ。どうする? 最初1時間取る?」
「いや、今日は無しでいいっすよ。あれは一人の空き時間でも出来るから」
確かにそれが懸命かもしれない。せっかく来たのだから、ここでしか出来ないこと。二人いることで練習効果が上がることを優先した方がいいだろう。
「分かった」
軽く打ち合わせをして、各々の部屋に入っていく。フォージを起動させ、ボイスチャットに入り、射撃訓練場に。
「今日はこれを1時間くらいして、そのまま対面練習をしよう。その後にテツがソロでプレイしてもらおうかな。俺がそれを後ろで見てるから、何か思ったことが有ったら、その都度言うよ」
「了解です」
そういって、今日の練習がスタートした。昨日よりも要領もよく、ひたすら、遠くの的と俺を交互に撃ち続ける。だいぶ手に馴染んできた様で、中距離のAIMから近距離にシフトするときのブレが少なくなってきている。
そこで俺は少し、難易度を上げるために、昨日よりもキャラコンを激しくする。前後左右、しゃがみやジャンプなどを加えて、的を絞らせないようにした。
初めはテツの練習と思い始めたが、普段はやらないキャラコンの練習にもなっていた。
それを続ける事1時間が経ち、次は対面の練習だ。昨日とは少し変えて、今日は近距離だけでなく、中距離、遮蔽物を挟んでなど、様々な予想されるであろう、戦闘条件を加えて練習した。恐らくどんなゲームでも言えることだが、ただ練習するだけでもある一定レベルまでは行くことが出来る。ただ、その一定を超えるためには、頭を使った練習をしなければならない。さらに、それをひたすら反復する必要がある。これをすることが苦痛に感じる人だと、壁を越えられず、成長を感じられなくなり、次第にゲームから離れていってしまうのだ。
「ねぇ。テツはなんでそんなに頑張れるの?」
ふと、聞いてみたくなってしまった。自分が劣っていると思ったら、大抵の人間は才能のせいにする。だけど、テツは決してそんなことはせず、行動で示そうとする。その力はどこから湧いてくるのか疑問に思ってしまったのだ。
こういったはあれだが、ゲームという物を選択しているから余計にそう感じてしまう。
「そんなの、決まってるじゃないっすか? 勝ちたいんですよ。俺は、何でもできる超優秀な人間じゃないんです。だから、せめて自分が選んだものだけは、他人よりもうまくありたい。強くありたい。それだけですよ」
人よりも何かの分野で優れたいと思うのであれば、並外れた才能か、並外れた忍耐力が必要だと俺は思っている。
しかし、それ以上に努力を努力と感じず、楽しさの延長線上に常にいる人間が一番強い。うちで言うと、タイガがその部類に入る。
「そっか。俺もゲームが好きだった。だから、その好きな物では誰にも負けたくなかった。一緒だね」
一方でテツは違う。コツコツ自分の信じる道をテツの愚直さを見るとついつい肩入れをしたくなってしまう。昔の自分を見ているようで。
「絶対に勝とうな」
「当たり前」
つい、気持ちが高ぶって、ボソッと言葉が漏れる。
なんだか、テツと一緒にいるのに、らしくない感じになってしまった。その後は、またいつもと同じに戻り、1時間ほど練習した。
「この辺でいったん終わりにするか」
俺のキーボードを打つ手が、痛くなってきて頃合いだと思い、そう告げる。
「了解っす。そしたら次はリアルタイムご指導ですか?」
恐らくテツの勝ち越しで終わり、少し手応えを感じているようだ。
「そうだね。そっち行くわ」
テツの、部屋にイスを持っていき入る。
「テツが、求めることはリアルタイムでの情報処理能力。だから、俺が普段なにを見て、なにを考えてるかを教えるから、それを実践出来るようになれば完璧だ」
「ビシバシお願いします!」
目の前のやるべきことをやり続ける毎日だったが、あっという間に4日間過ぎた。
想像以上に実のあるものとなった。それはテツだけでなく、俺自身も。
今日は、最終日だったため、店長さんに挨拶してから帰ることにした。
「4日間ありがとうございました。このお礼は後で必ずします」
「おっちゃんありがとうな! また来るよ」
テツは俺とは対象的な、フランクな態度でお礼を伝える。
「準決勝、決勝頑張って下さいね! 応援してます!」
俺も俺だが、店長さん最後まで緊張しっぱなしのファンボーイだった。
駅でテツと別れる。いよいよ一日開けたら、オフライン会場に行く。
フォージ始め、タイガに会い、テツとニシと4人でチームを組んだ。ここまで長かったような短かったような、どちらとも捉えられない日々を過ごした。
その日々に一区切りがつく。
目標が叶うのか?
それとも世の中そんなに甘くないと突き返されるのか?
十分以上な努力はしてきた。
緊張なのかプレッシャーなのか、なんとも言葉で言い表せない、この感情。
懐かしさを感じる一方で、戦闘態勢が整った。
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