休息日 2

 タイガから、そろそろ着くと連絡があったので、テツと一緒に駅の出入り口付近に戻ることにした。

 こうして、並んで歩くと、テツの大きさを改めて実感する。太っているという感じは一切なく、これぞ体育会系という感じだ。体のデカさからも、自信のありようがあふれているような感じがする。だけど、それはあくまでも「そう感じる」だけだということもさっき知ったばかりだ。


 駅に着き二人でタイガを待つ。改めて駅の人の多さに、懐かしさと息苦しさを感じる。仕事を辞めたから、食事の買い物以外ほとんど家から出ない生活だ。人混みに紛れるのもいつぶりだろうか? また、仕事をしていた時の生活に戻れと言われても、耐えられずに死んでしまうのではないだろうか?


 そんなことを考えていると、視界の端っこに、こちらに向かって走ってくる人が映った。それを認識したと同時に。


「ヴィクターさん! 初めまして! お会いできて本当に光栄です!」


 急に横から声が聞こえて驚いた。

 驚きで一瞬誰かと思ったが、俺の名前を呼んでいるから、この人がタイガなのだろう。しかし、ゲーム内の名前を外で呼ばれるのは、やっぱり恥ずかしいな。しかも、俺の名前は絶対に、本名じゃないのは聞けばすぐに分かるから尚更だ。

 それにしても、なんで俺がヴィクターだって分かったんだ? 


「おい、タイガ。俺もいるぞ」


「ああ、テツはなんか。想像してた通り、テツって感じだね!」


「お前もヴィクターさんも同じこと言うのな。そんなんにか」


 タイガは、俺よりも背が低くい。170㎝ないくらいだろうか? いや、それよりも中世的な顔立ちをしているため、遠めからだとまるで、女の子に見えてしまいそうだ。髪の毛も染めているわけではなさそうだが、元々の色素が薄いのか、耳が隠れるほどの茶髪気味だ。

 テツと並ぶと、肌の白さも際立つ。

 そう言えば、タイガは正真正銘の引きこもりだったっけ?


「お会いできて、光栄ですって、毎日話しているじゃないか」


 テツの時とは違い、少し緊張してそっけない態度をとってしまった。

 こんなにも、俺のことを尊敬してくれることに気恥ずかしさを感じてしまったのだ。俺自身が一番、尊敬されるような人間ではないことを知っているからだ。


「こうして直接会うのは初めてじゃないですか?」


 まあ、たしかにそうだな。


「それにしたってちょっと大げさすぎじゃないか? 俺には何にも無しの癖して」


 テツが、横からちゃちゃを入れてくる。今はその助け舟がありがたい。しかし、タイガからしたら、テツも初対面のはずなのに。テツにとってのタイガは、タイガにとっての俺と同じような感じだろうに。

 少し可哀そうに思える半分、面白さ半分だ。


「僕にとって、ヴィクターさんは英雄ですよ! 憧れの人にあったらこうなるのも当然でしょ」


 周りは気にしていないであろうが、やはりこんな人が、多い所でヴィクターと連呼されるのは、恥ずかしすぎる。

 もし、俺たちのことを知っている人が、いたらバレてしまうじゃないか。俺はともかく、テツなんかは目立つし、砲丸投げで結果を出していたのであれば、顔を知っている人がいてもおかしくないだろう。

 ん? そういえば、なんでタイガはすぐに俺がヴィクターだということに気が付いたんだ? 俺達二人が、ヴィクターとテツだということは、分かってもどっちがどっちだかは、確信持てないはずなのに。


「タイガ。なんで俺が俺だって分かったんだ?」


 当てずっぽう、というわけではないと思うが。


「ヴィクターさん過去に一回だけ顔だししてた動画見たことあるので」


「ああー」


 そう言えば、2年前の辞めるきっかけになった大会の時、色々と疑われないために、顔を一瞬映したような気がする。

 あの大会の俺の映像自体が、物凄く切り抜かれてるから、今でも確認しようとすれば出来るのか。

 それにしても、2年前の顔と照らし合わせてくるなんて。


「あの時よりも、少し瘦せてますが、すぐに分かりました」


 たしかに、あの時は実家暮らしだったから食事もきちんととっていたしな。仕事を始めたからは、堕落した食生活だし、仕事のストレスでやつれていただろう。だけど、ゲームを始めて心の栄養はたっぷり貰ったから、一番ひどかった時よりは、ましかもしれない。


「お待たせしました」


 突然、横からテツでもタイガでもない声が聞こえた。しかし、これも聞きなじみのある声だ。


「ニシか、よく分かったな」


 驚きつつも、俺が尋ねる。


「駅のそばにいる、三人組を探せば、見つかると思ったので」


「ニシ、お前おせーよって・・・・。お前なんだその頭!」


 テツが、ニシの頭を指さしながら、大笑いする。かくいう俺も、ニシの方を見て一番最初に目に言ったのは、そっちだった。


「お前、そんなおっさんだったのか。髪真っ白だぞ!?」


 ニシは、綺麗に染められた白髪でだった。さらには、最近よく見る、丸眼鏡をかけている。俺達3人の中では、誰もいなかったオシャレな人間だ。


「お前は相変わらず、うるさいな」


 ニシも顔を合わしているからか、いつもよりも、声の張りに切れがない。


「白髪染め買ってきてやろうか?」


 逆にテツは、ずっと同じペース過ぎて、見ているこっちがよそよそし過ぎるのかと勘違いしてしまうが、初対面なら普通こんなものだよな?


「テツ。そのくらいにしておきなよ。感動の初対面なんだから」


「なんだか、タイガが言うと説得力あるな」


 タイガの場合感動というか、感激というか、感嘆というか。とにかく嬉しいという感情だけは伝わった。


「タイガ、ヴィクターさん。初めまして、テツです。お会いできて嬉しいです」


 ニシは、俺たちの方を向き、軽くお辞儀をした。将棋をしていたからか、とても礼儀正しいな。

 見た目は、とても奇抜だけど。


「おい、俺にはなんにもないのかよ」


「お前は、別にいいだろ」


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