決勝リーグ 1
「今日から、公式で配信が始まるんですよね?」
「うん、そうだよ」
今回は、前日ゆっくり眠れたようで、いつも通りのタイガで良かった。先週寝不足名がら、あれだけのパフォーマンスを出せたとはいえ、ここから先は、今までのレベルの違う戦いになるだろう。
全部を全部俺が指示出せるわけではないので、とっさの判断は前線で戦っている、個人にゆだねなければならない場面が、必ず来る。一瞬の判断の遅れで、一気に形成が変わることなんて、よくあることだ。
そう考えると、今日はその点は安心していられるな。
決勝リーグの一日目。今日は2試合行うことになる。負ければその時点で終わりだが、負ける気なんてサラサラない。ここの誰もがそう思っているだろう。
「というかさ、出場チーム一覧みたら、俺達以外は皆プロチーム所属してんじゃん」
「嘘!? アマチュアチーム僕達だけ?」
テツの発言に大きく反応するのはタイガだった。ずっとAIM練習をしていた手を止めてまで、公式のSNSを確認しにいったようだ。
「嫌でも目立つな。最高じゃん」
「これで勝ったらめっちゃカッコいいね」
テツは、もともと目立ちたがり屋のようで、この状況を楽しんでいるようだ。でも、それは俺も同じで、初めてフォージで日本一が決まる大会の、決勝リーグにまさか出られるなんて、数か月前では思いもしなかった。
まさに人生が180度変わった。
「この人たち月いくらもらってんのかな?」
ぼそっと発言するニシに、笑いがこぼれた。やっぱり、ニシはそこに目がいってしまうのか。普段から金のことを言っているわけではないが、時々ボソッと言うのだ。
ゲームして金を貰うことに憧れでもあるのだろうか?
俺はそんな幻想はもう、当の昔に捨てた。タイガは、ゲームできていること自体が、嬉しいようで、そんなことどうでもよさそうだ。テツは、何かに夢中になれていること、それで結果が出すことに目線が向いている。
そう考えると、ニシが普通で俺たちの方がおかしいのかもしれない。
「ゲスいこと考えるねー。本当に。どんだけ金欲しいんだよ。今だって、生活困らないくらいはあるだろうに」
「お前みたいな学生には、まだ分からないかもしれないけど、この歳で無職っていうのは、世間様の目が厳しいんだよ」
「おっさんは大変だな」
まあ、確かに少なからず年齢っていうのも、あるんだろうなとは感じる。
「だから、ヴィクターさんが仕事辞めてきたときは、本当にびっくりしたよ」
「でも、ニシはそこそこ稼いでるじゃん」
「そうだけどさ」
「そろそろ始まるよ」
試合前の雑談をしていたら、もう開始時間だ。
直接試合とは関係ない話で、盛り上がれているところを見ると、みんな過度な緊張はしていないようだ。
「作戦ちゃんと覚えているな?」
「はい!」「おう」「ええ」
なんだかんだ、これが試合前の掛け声みたいになっている。
今回は、前回の裏をかくような作戦ではないく、俺たちの実力が最大限活かせる方法で戦う。
リスポーンと同時にテツが前に出る。
先頭にテツを置いて、おとり役として立たせとにかく動き回ってもらう。テツは移動系を使い最前線に、いって領土ポイントを得る。移動系は常時走るスピードが1,5倍になるため、逃げまわることに徹すると、意外と生き残れる。最悪死んでもいいとも言ってあるため、大胆に動けるだろう。
テツは、目立ちたがり屋な割には、ちゃんとチームの勝利に身をささげてくれるので、どんな役回りをさせても、文句ひとつ言わずに真っ当してくれる。
「敵見えて来たぞ! 80度方面に二人! あとは分からん」
画面の上にある、方位磁石を目印に、正確な敵の位置を伝えてくれる。そこに、タイガがキルを取りに行く。俺は相変わらず盾職でタイガにくっ付き、タイガには敵にだけ集中できるようにする。俺のことを信頼してくれているため、一切敵の銃弾を気にしないキルマシーンだ。
「左から射線通るぞ!」
しかし、俺も前回までとは違い、大盾ではなく、一番少ないポイントの小さい物なので、射線管理を甘くすると一気に潰されてしまう。
今回一番責任が重いのは俺だ。
「左やった」
左手にいた、厄介な射線をニシが後ろから援護してくれた。
ニシにはスナイパーとしていてもらい、タイガのサポート兼制圧を行ってもらっている。
「ヴィクターさん! 前方の遮蔽前に二人いるよ! 一気に詰める!」
「おっけ!」
タイガはそう言うと、俺の返事を待たずに、一気になだれ込んでいった。俺はタイガの声を聞く前に、キャラの動きで、次どうするかが分かっていたから、遅れなく合わせられた。
敵は、一人やられたことにより、状況把握が出来なくなって、動けなくなっていた。そのため、あっさりとタイガが、2キル。
「後一人!」
序盤のリスポーンまでは20秒あるため、猶予はもうないが。
victoryの文字が出る。
前線にいたテツが残りの一人も倒したようだ。
「おっけ! やったわ」
「ナイス!」「完璧だな」
この試合はたった1分で、方がついた。
俺達の実力とそれぞれの得意なことを最大限生かせる作戦になっている。
恐らく相手チームは、俺達が前回と同じ戦法で来ると思っていたのだろう。上手く展開していたものの、各個撃破された形だ。
それにしても、作戦がこんなにも完璧にはまるなんて。盤面が自分の思い通りに言った時のあの快感がなんともたまらない。
「ヴィクターさんの作戦マジでドンピシャでしたね!」
「ヨっ! さすがヴィクター日本一!」
「全員がきちんと自分の仕事こなしましたね」
あっという間に終わったが、これ自信にもなっただろう。このまま波にのっていけるといいな。
「3本先取だから後2勝だね!」
「次はさっきみたいに甘くはいかねーぞ」
「この調子でいくぞ!」
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