予選開始 3

 俺たちは、予選全試合をあの戦法で戦い抜き、見事決勝リーグに駒を進めることになった。配信をしていたとは、すぐにこの戦法の意図を理解して、戦略を立ててくるチームはいなかった。

 それでも、何度か危ない場面はあったものの、元々フィジカルもAIMもいい3人だったため、乗り切ることが出来た。

 3人も、ゲームの大会という物の雰囲気や、感覚を上手くつかめたようだ。


「見たか? 唯一配信をして全てをさらけ出した、俺たちへの反応」


 大会終わりはさすがに疲れたので、そこで解散して翌日の今日、反省会やらこれからの作戦会議やらをするために集まった。

 そこでテツは、開口一番に興奮気味に言う。


「うん、見たよ。みんな色んな所を褒めてくれて凄い嬉しかった」


 特にタイガへの声援は凄かった。一番目立っていたのもあるが、既に、ファンが出始めているようで、昨日の大会終わりから、SNSのフォロワーが一気に増えたらしい。


「勝った時の、コメントの流れるスピード凄かったですね」


 ニシも、なんだかんだ言って、初戦が終わってから、緊張も解けたようで、自分の配信のコメントを読むだけの余裕があったようだ。


「あれほど気持ちいものはねーよな」


 決勝リーグに上がれて、作戦も上手くいき、配信も上手くいき言うこと無し。そんな風に行かないのが現実だった。


「でも、あれだな。少なからず、批判もあったね」


 特に、俺の所に集中して集まってはいたものの、それぞれのコメント欄でも、SNSでも、批判的な内容は書かれていた。


「つまらない戦い方って言われてましたね」


 フォージはアグレッシブに戦う物だという価値観がある。それは、ランクマッチの仕様上の問題である。フォージは敵、味方のどちらかのメンバーが全員リスポーン待ちになると勝敗が決まる。そのため、あっという間に終わることもあれば、泥沼化する場合もある。

 ランクマッチにおいては、何よりも重視されることは、1マッチを早く終わらせることなのだ。長時間戦うより、例え負けたとしてもマッチ数を多くこなした方が、ランクを上げる効率がいいとされているからだ。


 つまり、一回負ければ、終わってしまう大会とは、負けの重さが違うのだ。


「大会が始まったばかりで、大会といものをきちんと理解していない人も、いるだろうから、しょうがないと思うけどな」


「そうだね。実際、予選の相手チームも全員アタッカーで凸ってくるチームありましたしね。しかも、ポイントを振り分けることもしないで」


・一人何もしてないやついる

・なんで、ヴィクターがアタッカーじゃないんだよ。腕が落ちたのか

・所詮過去の人間か

・一回消えたから、勝手に名前が一人歩きしてただけで、たいしたことない

・フォージは撃ち合いが楽しいのに、こいつら亀みたいになって何やってんの?

・盾職とか使うやついたんだ

・こんなんで、決勝いけるとかぬるすぎ

・予選を勝ち抜くためだけの、作戦だから決勝リーグは初戦敗退だよ


 見れば見る程、散々の言われようだ。中には言いたいことは、分かるけどという物も含まれてはいる。だけど、俺たちがやっているのは、誰で参加できるランクマッチをやっているわけではない。日本からたった1チームしか出場できない、世界大会の席を狙っているのだ。

 その違いは、果てしないものだ。それに、ほぼほぼ的外れなものばかりなので、俺は何とも思わない。

 ただ、他の3人が心配だ。俺は過去にも似たようなことがあったから、慣れてはいるが、3人は未経験なことだろう。特に、タイガの過去を知っているだけに、あの時を思い出して辛くなっていないかが心配だ。


「全く! 本当に腹が立ちますねヴィクターさん!」


「そうだな。でも、そんなに気に」


「ヴィクターさんのことを、こんなに悪く言うなんて! 何も分かっていない癖に!」


 ん? 俺のこと?

 俺は別になんとも思っていないが、俺のことを心配してくれているのか?


「お前本当に、ヴィクターさん好きだな」


「実際、タイガの言うとおりですよ。ヴィクターさんがいなければ、この作戦は成功しませんでしたし。そもそも発案すらされなかった」


 確かに、最初の話題があったため、「そんなことでも悪く言いたがる人」の標的になっているのは俺だ。だけど、そんな人たちはごくわずかで、ほとんどの人が称賛してくれて、応援の言葉をくれている。

 だけど、俺に取ってはそんな些細なことでも、本気で怒ってくれる3人を見て。大切な仲間だと、思ってくれていることを嬉しく思う。


「決勝リーグじゃ、勝てないって言う人もいたけど、もともと予選用の作戦だったしな」


「そうだな。流石に決勝リーグまでくるようなチームならこれの弱点もわかってるだろうし。」


 この作戦の弱点はキルをとりにいかないこと。もっと言うなら攻撃しないことだ。

 攻撃しないで、ポイントが貯まるのを待って、グレネードでも使えば一発だ。

 キルをとるゲームという先入観があるため、予選で即この対応を取ってくるチームはいなかった。

 だけど、決勝リーグにくるチームは、予選を勝ち抜いている実力あるチームだし、配信アーカイブで対策もされるだろう。

 ここからが本当の勝負だ。決勝リーグからは、公式が試合の中継をおこなうから、どこのチームも作戦がバレる。そのため、新しいものを考えてくるか、対策されても大丈夫な状況づくりが求められる。


 日本トップレベルの実力者どうしと、練りに練られた作戦のぶつかり合い。

 ここまで来ると、いつも俺たちがやっているフォージとは別のゲームだ。


「それで、ヴィクターさん。次の作戦はもう考えてあるんですか?」


 今回の件で一段と気合いが入った、タイガが次の作戦を聞いてきた。気が早いように感じもするが、ベスト8まで決める試合は、2週間後の土曜日だ。そのまた、一週間後にベスト4まで決めて、オフラインの会場に行ける。

 わざわざ、時間を空けるのは、準備と対策をする時間をきちんと取らせるためだろう。この時間が長ければ長いほど、フォージというゲームの理解度が高い方が勝つ。運営もそれを望んでいいるのだろうな。


「決まってるよ。次の作戦はだな」







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