作戦会議 2
「ここで、相談なんだけどさ」
みんなの意思は固まって、目標も定まった。
そして、これから日本予選が始まるまで後2か月。どのような行動方針を取るか。
まず決めなければいけないことは。
「企業に所属するかしないかなんだよな」
「もう、結構部門設立しているところ多いですもんね」
「あ、そうなの?」
ニシは色々と調べているようで、既に企業含め界隈が動き始めているのを認知している。
まあ、無職だから給料を出してくれるところを探していたのかもしれないが。
そして、テツは相変わらずの、能天気さ。
「初めての世界大会だから、eスポーツ参入企業も多いしな」
「まあ、それだけ怪しい企業もいっぱいあるからな」
そう。そこが一番の問題点なのだ。ある程度の基盤が出来た状態ではなく、全くの更地の状態だ。既にeスポーツチームを持っているチームですら、新チーム発足には苦労する。
なぜなら、選手たちの情報が全くないからだ。恐らく、他の部門からのコンバート選手もいるとは思うが、それでも、未知数だろう。誰が強くて、誰が品格方正か、図る手段を持っていないから。
「ヴィクターさんは、プロ経験あるからその辺詳しいんですよね?」
「まあ、普通の人よりは、たぶんね」
どちらかというと苦しんだ側だから、なおのことだ。
「どんな感じだったんですか?」
一番食いつきがいいのはやはり、ニシだ。
「まあ、俺は一切給料なかったな。備品支給っていっておきながら、パソコンの支給も結局なかったし」
今となれば笑い話だし、後進にこうやって伝えられることは良いことだ。良い景色ばかり見ていることは、悪い事ではないが、良くない物を見た時の耐性を持っておくべきだから。
「やっばw 俺だって部活をやっていた時は、学費免除だったのに」
「なんかスポーツやってたの?」
「ああ、ヴィクターさんはまだ知らなかったか。俺元々砲丸投げの選手で国体入賞経験があるんっすよ」
「ええ! そんな凄い奴だったんか!?」
「まあ、怪我で選手辞めて、特待生から降ろされて、ただいま大学に行っていない、どん底人生を味わいましたがな」
本人の中でも笑い話になっているようだからいいが、よからぬ地雷を踏んでしまった。それにしても、そんな凄い選手だったとは。しかしこれで合点がいった。テツの土壇場で魅せる集中力は、そういった経験を積んでいるからなのか。
やっぱり、なにか本気になった物を持っている人は、強いな。
「話がずれてますよ」
やはり、こういった時にも一歩引いてるのはニシだ。少し感じていたが、もしかしたら、俺より年上か?
「実際皆は、生活に困っていないの?」
タイガの質問をは一歩踏み込むんものだった。
実際のところ、そこが一番の問題だ。金の問題があるから企業に入るかどうかを始めに決めたかったのだ
「俺は、まあ、大丈夫っちゃ大丈夫。だけど、動画投稿と配信は続けるかなと思ってる。それがあれば、まあ何とかなる」
これは見栄でも何でもない事実だ。だけど、本気で勝ちに行くのであれば、作戦バレなどを防ぐために、今まで通りチーム練習などは配信出来ないと思う。だから、他になにか考えないといけない。
「まー、俺も大丈夫かな? 親の金で一人暮らししてるし」
「僕も、まだ実家ぐらいですから、大丈夫ですね。ただ、さすがに通信は卒業しないといけないので、多少の勉強時間の確保くらいですかね?」
さすが、学生さんは自由がきいていいな。実際俺もあんなゴミみたいなプロ活動できたのも、大学生の実家暮らしだったからだ。
「あーあ。良いね若い人たちは」
え? 若い人達って、タイガとテツのことだよな? 俺が24だってことは伝えてあるから、さすがに俺は入ってないよ・・・・な?
「ああ、引きニートのおっさんは大変だもんな」
テツが笑いながら、茶化している。
いや、おっさんって言っても、どうせ俺と同い年くらいだろ? まあ、テツならそう言うこといいそうだけど。
一応・・・・。
「ニシっていくつなの?」
「・・・・25だよ」
「えええええ?」
ボソッという、その言葉が信じられなかった。
マジで? どおりで一人落ち着いている人だとは思っていたけど、まさか俺より上だとは思わなかった。
「まあ、でもそこまで金には困ってはいないから、大丈夫ですよ。貰えるに越したことは無いけどね」
「おっさんは賞金で荒稼ぎしてるもんな!」
「賞金ってゲームのですか?」
「いや、将棋のです。それとヴィクターさん。今まで通りでいいですよ」
将棋? 将棋ってあの将棋だよな?
「もしかして、プロ棋士?」
「に、なり損ねたものですね」
俺に被せて、今度はタイガが入ってきた。
よく分からないが、めちゃくちゃ狭き門なことは知っている。そこで、戦っていたのか。
というか、テツだけでなくタイガまでもが、イジッているてことは、それはニシの中で許容していることなのか。
「アマチュアでも、賞金出る大会があるんですよ。それに、規定に達しているとプロの大会にアマチュアが出れたりもするんで、そこでまあ、少し稼いでいるって感じですね」
「こいつも凄い奴だったんっすよ。だけど、俺と同じ転落人生」
テツは笑いながら言っているが、とてもではないが笑える話ではない。
なんか、勝たなければいけない理由が一つ増えたような気がするのは気のせいだろうか?
「そういえば、今思い出したけど、あの時のキルランキング1位の賞金、所属企業を通して振り込まれるはずだったのに、貰ってなかったな」
唐突にそんなことを思いだした。あの時は、自分の結果すらも満足に見なかったし、その賞金のことなんてすっかり頭から抜けていた。
「いくらですか?」
「ん? たしか30万」
「「やっば」」
タイガとテツの声がそろった。決して、少ない金額をうやむやにした、あの会社。社会人として働いたからこそ分かる、その金額の重さ。
「さっきから、怖い話しか出てこないじゃないですか」
ニシにとっては都合のいい話ではなかったから、引いてしまっているようだ。まあ、ゲーマー達が一度は夢見る世界のはずだが、突きつけられるのは、厳しい搾取社会の現状だからな。
「まあ、俺がプロやってた時よりかは、さすがに良くなってると思うけどね」
「じゃあ、そんなに急いでチームを探さなくてもいいんじゃない?」
「そうすっか」「そうだね」
タイガの提案に、満場一致だ。
それもそうだ。何も焦って決める必要なんてないのだ。別ゲーもやって無くて全くの無名の選手は、足元を見られやすい。だったら、きちんと実力を誇示してからでも、遅くはない。
企業に頭を下げて入れてもらうより、企業に頭を下げてもらって入る方が、待遇もいいだろう。
「そうなると、重要な問題がもう一個ある」
「え? まだあるんすか?」
「企業に入らないとなると、逆に決めないといけないことがある」
「あ、チーム名か!」
大会登録に必要になるから決めないわけにいかないものだ。
「重要なことを忘れてた」
「なんか、案ある?」
「俺たちにふさわしい名前があるよ」
「なに」
チームのチャットに打ち込んだ。
「カッコいいけど、なんか意味あるの?」
テツが、疑問の声を投げかけてくる一方で、ニシはすぐに意味が分かったようで、笑っている。
「良いですね! これにしましょう!」
タイガが賛成してくれたから、これで決定だな。
「・・・・って意味だよ」
意味を伝えると、テツも大笑いし始めた。
「いいね! いいね! 俺たちにぴったりだ!」
「じゃあ、満場一致ということでこれで行きますか!」
「おっけ!」「おお!」「了解!」
チーム名 ODDS&ENDS
メンバー ヴィクター
タイガ
テツ
ニシ
ODDS&ENDS
意味-ガラクタ、半端もの
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