本格始動 1

 俺たちはそれから、毎日12時間以上は練習をしている。

 そうはいっても、12時間ぶっ続けで練習しているわけでなく、反省会や作戦会議、大会参加チームのリサーチなどを合わせると、その時間になる。


 一日の半分を、ゲームに当ててると考えると、頭がおかしくなりそうだが、以外にも、辛いとかしんどいって感情はない。おそらく、3人も同じだろ。

 誰もサボることもないし、嫌味を言うこともない。

 というか、なぜだか分からないが、練習も終わっても、皆VCから出ていかないから、寝ている時間を覗いてずっと一緒にいるようなものになっている。

 みんな結構自由で、テツは筋トレしたり、タイガは勉強、ニシは将棋をやったり、別々のことをやっている時でも、全員VCをつけっぱなしでやっているのだ。

 かくいう俺も、例外ではなく、そこで動画の編集作業をしている。


 前の時は、チーム練習中ですら会話も無かったし、意思の疎通も難しかった。

 あの居心地の悪さを考えると、胃が痛くなるほどだ。

 それから比べるとこの3人と一緒にいるのは本当に居心地がいい。

 その居心地の良さを3人も感じてくれていることにも、喜びを感じる。


 毎朝起きてやりたくもない、好きでもない仕事をしなくてもいいだけ、毎日が楽しいのに、それに加えて大好きなゲームが出来て、信頼し合える友人もいるなんて、今が人生の絶頂期のようにすら感じる。


「そういえば、さあ」


 今日の練習が終わり、皆が各々のことをやっている中で、テツが口を開いた。


「結局何チーム出るか分からない状況だけど、決勝リーグまでは、総当たりなんだよな?」


「そうだな。日本予選の一週間前までエントリー可能みたいだから、まだまだ先だな」


「予選はグループに分かれての総当たりで、決勝リーグからは3本先取ですね」


 ニシとタイガがそれぞれテツの疑問に答える。


「で、準決勝、決勝は、日を開けてのオフライン開催」


 2人に続き俺が、補足をする。準決勝までは、毎週一気に行われるようで、かなりの過密日程になる。1試合の時間も長いし、集中力を使うのでかなり体力勝負の面を持つ。だから、一日の練習時間を増やして、それに耐えうるだけの体力も作っておかないといけないのだ。


「ああー、優勝まで結構果てしねーな。参加数少ないとい~な~」


 だいぶ声が遠く聞こえるから、こいつベットで横になっているな。


「それは、無理だな。既に参加表明しているのが60チームくらいあるから」


「え? もうそんなにいるの?


 それは、俺も知らなかった。まだ発表して2週間。予選開催まで1か月と半分ある。初開催にして、その数とは人気の程が伺える。


「もう、そんなにいるんですか? しかも、まだまだ増えるだろうし、既に申し込んでいるチームはやる気満々の所だろうし、簡単に勝ち上がらせてはくれなさそうですね」


 この話を聞いている限り3人とも、自分達が負けることなんて一切考えていないようだ。

 なんとも誇らしいメンバーを持って安心する。やはり勝ちを目指すなら、このくらいの気の持ちようじゃないとな。


「それより、決勝リーグからはなんで会場にいってやるんだ?」


「たしかに。わざわざ国内だったらオフラインでやる必要ないですよね。海外とかなら、回線の差があるけど」


「ああ、それはな。結局世界大会になるとオフラインでやるだろ? それの練習を兼ねてるみたい。日本の運営人は本気で日本人に世界で勝って欲しいって思ってるんだろうな。こんな大変なことまでするんだからな。」


 テツとタイガの質問には、俺が答えた。俺も、結局は経験せずに終わってしまったが、前のゲームでも同じだったのだ。やはり、本番と同じ環境でやることは、本当に練習になる。


「それってそんなに差があることなのか?」


「ほら、いつも家でゲームしているのに急に開けた環境とかいつもと違う場所、観客がいるってなると緊張するだろ」


「なるほど、そう言うことなんですね!」


 しかし、それには顔出しという物が避けて通れない課題としてある。勿論単純に顔を出したくない人もいるだろうが、社会人などはそれを理由に参加辞退する人も少なくはないだろう。副業禁止の所も多いし。

 俺も学生の時に顔を出していなくてよかったなと改めて思った。今ならいいが、あの時だったら、就職にも影響していたかもしれない。


「ああ、おれも国立競技場でやった時はめっちゃ緊張したな。


「急に規模が違う話を始めやがった」


「そういった点だとうちは優秀だな。こんだけ場慣れした奴がそろってるんだから」


 俺は、言わずもがなだが。テツも、ニシも相当場慣れしているタイプだ。テツなんかは、そんな大舞台を経験しているのだから、自分のプレーを見られることに違和感はあまりないだろう。

 タイガはそう言ったことは一切ないが、なぜだかタイガなら大丈夫なような気がする。こいつはそんな、周りとか環境を気にならないほどにゲームに没入出来るからだ。それに、結構図太いところもあるからな。


「いや、今はほぼ全員引きこもりですけどね」


 タイガが笑いながら控えめにいった。


「「「確かにな」」」


 タイガの言葉に、3人とも同じ反応をした。まさにその通り。ここで結果を残さない限り、俺たちは、ただの引きこもりゲーマーだ。4人とも自ら道を選んでいるが、勝つことによってそれが正しい道だったことが証明される。















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