作戦会議 1
家に、帰るとまだ11時前だ。
パソコンを起動すると、他のメンバーはまだオフラインだった。1回寝ようかなとも思ったのだが、普段は仕事をしている時間だし、よくよく考えてみると、起きたばかりだ。明日からはずっと自由な生活なのだから、そんなに焦って自由を謳歌しなくてもいいか。
これからは、自分の実力だけで金を稼がないといけないのだから。今後のことも色々考えないといけないな。しかし、社会人になってから、ほとんど金を使わなかったので、そこそこの貯金がある。また、動画投稿でも、少し稼げるようになってきたので、今まで通り継続して頑張れば、すぐに金欠になることもないだろう
それに、まず第一に頑張らなければいけないことは、目の前の日本予選に勝つことだ。これに勝たなければ意味がないのだから。
「あれ? ヴィクターさんこんな時間にいるなんて珍しいですね?」
そう言って、チームのチャットルームに入ってきたのは、テツだった。
「おおー、そうなんだよね。実は今日仕事辞めてきた」
テツは、口調は雑なのに結構真面目な奴だと最近分かった。3人とも本気なのは分かっているが、その中でも一番時間をかけているように見える。
「は? マジで言ってます?」
「うん、マジだよ」
「どんだけ、本気なんですか?」
「やるからには、マジだろ?」
「うわー! やっべー! みなぎってきたー! ヴィクターさんがそこまで腹くくってんなら、俺たちも本気出さなきゃ」
いや、俺が腹をくくったのもそうだが、皆の気持ちが本物だったから、俺も勇気をだせたのだ。これで、口だけのやつらだったら、決して競技に戻ってくるつもりは無かったし、仕事だって辞めて無かった。
先に本気を見せてくれたから、俺もそれに応えてまでだ。
しばらく、テツと話していて、そろそろ2人でゲームするかと、なった時にタイガとニシも入ってきた。
「おっはよー」「おはようございます」
「おい! お前らヴィクターさん仕事辞めたらしいぞ!」
2人が入ってきて開口一番に、テツがそう言った。
「は? テツお前何言ってんだ? そんな下らん嘘つくなよ」
ニシが冷たくテツをあしらう。それもそうだ、俺だって逆の立場だったら、そんなこと信じるわけがない。
「いや、本当だよ」
このままではテツが嘘つきの烙印を押されてしまうので、きちんと念を押しといた。
すると。
「「えええええええーーーーーーーー」」
珍しくニシまで大きな声を出して、驚いている。
「な? ほんとだろ?」
テツが胸を張るかのように、自分の無実を証明する。
「なにも辞める必要は無かったんじゃないですか?」
普段から冷静で、プレイ中も広い視野で、皆の情報共有をしてくれている、ニシが慌てているのが、分かると少し、笑みがこぼれてきた。こんな反応を示してくれるのを見ると、だいぶ俺も、この場に馴染んできたのだということを実感する。
「本気で勝つんだったら、仕事辞めないとだろ。練習時間も取れないし」
一日の半数の時間を、仕事で取られてしまっては、一日全部をゲームにかけている人達に勝てるわけがない。
ましては、世界一を志しているならなおさらだ。
「ヴィクターさん、本当に大丈夫なんですか? 僕無理させちゃいましたか?」
タイガが、申し訳なさそうに言った。自分が大会に出ようと言った手前、責任を感じているようだ。
そこまで、話し合いをしていたわけではないから、急にこんなことになるとは、思っていなかったのだろう。
「いや、全然大丈夫だよ、多少の貯蓄もあるし」
俺も、少し申し訳ないことをしたなと思う。きちんと相談してからに擦ればよかった。そうすれば皆をこんなにも、驚かせることも無かっただろうに。いつもの、思い立ったらすぐ行動が、裏目に出てしまった。
俺からすれば、どうしてもこの仕事じゃなければダメというわけでもなかったので、そこまで悩むことも無かったのだ。
「悲報。全員引きニート」
「え? みんな学生かと思ってたけどそうじゃないの?」
「えーとですね。一応僕とテツは学生です。といっても、僕は通信制の高校なので、ほぼ学校に行かないですし、テツは大学生ですが、こんな感じです」
テツの冗談かと思ったら、どうやら本当らしい。
「そんで、ニシは正真正銘の引きニートっすね!」
タイガがそう説明してくれた。ネットをとおしてだと顔が見えないから、声くらいでしか、年齢を予想できない。でも、声なんてほとんどあてにならない。
しかし想像以上にタイガは若かったし、一番しっかりしてそうなニシが、引きこもりとは意外だった。
よくよく考えれば本名も顔も分からない、人たちのことをここまで信用して、仕事を辞めるまで、ガチでゲームしようとしているなんて、理解できない人は多いだろうな。
ネット社会って相手の姿が不鮮明だから、何事にも用心が必要って思われがちだけど、逆を言えば、その人の素を受け入れやすいっていうのもあるのかな。
「なにはともあれ、これもう、まじで頑張らないとですね」
タイガのボソッとしたつぶやきが、この場の全員の意思そのものだ。だが、それを行動として示すのは、口にするよりも、もっと重いことだ。
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