第7話
次の日、廊下で何やら重そうな荷物を抱えて歩いている樋口を見つけて俺は思わず駆け寄った。
「半分持つよ」
「伊藤君?」
突然声を掛けられて振り向き、少し驚いた表情になる樋口。
「えっ、でも悪いよ。伊藤君は委員じゃないし」
「いいよ。部活もないから暇だし」
遠慮する樋口を押し切って、俺は彼女の荷物を半ば強引に受け取った。
嵩張るから持ちづらいだけで、男の俺からすれば大した重さではない。すぐに俺達は荷物を運び終えた。
「ありがとう、伊藤君のおかげで早く終わったよ」
「別にいいよ、俺が勝手にやっただけだし」
二人とも他に用があるわけでもないので、自然と一緒に帰ることになる。
学校の近くに住んでる一部の生徒を除いて、皆同じ駅から帰るので、俺と樋口も駅まで一緒に歩いた。
「ちょっと寄ってかねえ?」
駅に着いてこれで樋口ともお別れか、と思った瞬間、気付いたら言葉がついて出た。俺の目の先にはハンバーガーのチェーン店。
彼女の返事を待つ間、なるべくなんでもない風を装っていたけど、俺の心臓はバクバク脈打っていた。
樋口はちょっと驚いた風に目を見開いた後、軽く微笑んで頷いた。
「そうだね、お腹すいたし。夕ご飯まで時間あるしちょっとならいいかな」
ファーストフード店の中、俺と樋口は向かい合って座っていた。
側から見たらどう見ても高校生のカップルだろうな。
この状況をどう思っているのか、樋口はごく自然にハンバーガーを頬張っている。俺は我知らず樋口に目が吸い寄せられていた。
大きな二重瞼の眼。瞬きをすると、長いまつ毛がぱちぱちと動く。ハンバーガーを食べる時、薄い唇からチラリと覗くピンクの舌が妙に色っぽく見えた。
そこで不意に樋口がこっちを見た。急な動きだったので、俺の心臓はどくんと跳ねた。
「何か顔に付いてる?」
「いや、別に」
「もう、食べてるところ見られるの、なんか恥ずかしいからやめてよね」
そう言って頬を膨らませるが、可愛らしい印象が増すだけだった。
「なんだか最近伊藤君と話すこと多いよね」
ふと思い出したように、樋口が呟く。
「そうか?」
俺はそうとぼけたが、俺の方から話す機会を増やしているんだから当然だと。
「そうだよ、同じクラスになっても全然話すことなかったのに、ここ二週間くらいかな?急に増えた気がする」
「言われてみればそうかもな」
「でも伊藤君って確か他のクラスに彼女いるんだよね?いいの?」
いいの?というのは女子である自分と二人で会っていいのか、という意味だろう。
「別に浮気してる訳じゃないし、クラスメイトと帰りにちょっと寄ることくらいあるだろ」
「彼女さん結構放任主義なんだ?」
「まあな」
これは嘘だ。実際には絢は結構束縛してくるタイプだ。だからこんな所を見つかったらどうなることか。
「ていうか樋口こそいいの?彼氏とか」
聞かれて樋口は吹き出した。
「私?いいも何も彼氏なんていないし」
それを聞いて俺はほっとした。樋口に彼氏がいようがいまいが、俺には関係ないことなのに。
「私なんて特に目立つ所何にもないしさ。今まで告白されたこともないし、このままずっと彼氏の一人も出来なかったらどうしようなんて、あはは…………」
本当なら学年でも屈指の容姿を持ちながら、樋口にはその自覚がない。それは同じ学校の生徒もだ。俺だけが、彼女の持つ魅力を知っている。
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