2020年3月16日(月)-6

 そうして卒園式は無事終了。このまま園児たちは退場かと思ったけれど、司会者の先生が「このあとは役員さんにマイクを変わります」とアナウンス。

 そうして役員さんが保護者席からいそいそと移動し、頬に流れる涙を拭いながら、気を取り直した様子でマイクを受け取った。


「ではこれからお世話になった先生方にお花とプレゼントを渡したいと思います。本来なら謝恩会のあとで行う予定でしたが、今回は感染症対策ということで中止になってしまったので、今この場を借りて行いたいと思います」


 ということで、何人かの園児が前に呼ばれて、ついでに控え室のほうからぞろぞろと先生たちも入ってきた。

 だいたいはブラックスーツを着ていたけれど、預かり保育の子供たちを見ていた先生たちはエプロン姿で。


 その中には娘が年少さんのときに担任してくださったO先生もいた。

 O先生、もう控え室から入ってくるときから号泣していて、役員さんが「O先生はこの学年の子たちが年少さんのときに担任してくださいました」とアナウンスしたものだから、より泣いちゃって、ほかの先生方にほほ笑ましく慰められていたという。


 そして園児からお花を渡されると「ありがとぉおおおおお」と保護者席にも聞こえるほどの声で泣きながら笑顔でお礼を言って、園児をひしっと抱きしめていたという。

 ほかの先生方も同じように園児にお礼を言ってぎゅっとハグしてくれる。


 わたしはその光景を見たときに、はじめてボロボロと涙がこぼれていくのを感じたね。

 この園の先生方が子供たちに、どれほどの愛を注いでくれたかがわかる光景だったから。

 そして卒園するということは、もうこの無償の愛を受け取る機会がなくなるということなんだ。


(つらいぜ~。これから幼稚園の先生のアシストなしでどうやって子育てしていけばいいんだよ~)


 そのことが胸に迫って、なんとも悲しく心許ない。


 そうしてすべての先生にお花と記念品を渡し終えたあと、担任の先生も花束を抱きしめ、感極まって泣く中、園児たちは先生のあとに続いてぞろぞろと退室していった。

 遊戯室の入り口をくぐると、その向こうでは先生方が待っていて、卒園児たちに「おめでとう~!」と言いながら、これでもかと紙吹雪を降らせていた。

 なにこの演出ー! 泣けるー!


 なんとも泣けちゃうねぇなんて、保護者たちがにこやかに顔を見合わせる中、役員さんが「では、謝恩会で配る予定でした諸々をここで配布します」ということで、奥からあれこれ持ってきてくださった。


 一人一人が紙袋を配られ、中をのぞくと、謝恩会で食べる予定だったっぽい、おにぎりやサンドウィッチやケーキなどが見える。その下には記念品やら星のついたステッキやら、なにやらあれやら、いろいろ諸々……。

 おかげでそれなりに重たい荷物を担いで、保護者たちは園児の最後のホームルームが終わるまで、園庭で待たされることになったのだった。

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