2020年3月2日(月)-3

「それにこうしてわたしがキェエエエエ! ってなったときに不満を聞いてくれるだけで、わりと落ち着けるからありがたいよ。充分協力できているよ」

「ありがとう」

「登園もさぁ、させないほうがわかっているけど、○子ちゃんが言うには卒園式の練習もはじまっているし、予定表見ると明日は一回目の予行になっているんだよ。ついでにひな祭りのお祝いも特別給食あるみたいなんだ」


 我が家は行事にこだわらない家で、ホールケーキを食べるのも子供の誕生日とクリスマスだけ。クリスマスツリーはもちろん、ひな祭りも子供の日も、飾り的なものはいっさい出さないし、バレンタインや母の日なんかもスルー。


 夫はどうか知らないが、わたしはそういうイベントをどちらかといえば『面倒くさい』と捉えちゃうタイプなのだ。

 だからこそ、四季のそういうイベントを大切にしてくれる幼稚園には助かっている部分がある。


 ひな祭りの集いでは毎年歌を歌い、ひなあられをもらってくるのだ。

 三学期になってから、ひな祭りの歌を幼稚園で覚えた娘は、毎日のように「明かりをつけましょ、ぼんぼりに~♪」と楽しそうに歌っている。

 できれば幼稚園で歌わせてあげたい。先月の節分のときも、鬼に向かって新聞紙を丸めて作ったボールをいっぱい投げたと、楽しそうに話してくれていたし。


「そうだよね。卒園まであと二週間。なるべく思い出は作ってあげたいよね」

「卒園式もできるかどうかわからないけど、いざ『やる』ってなったときに、流れもなにもわからない感じじゃ、○子本人が困ると思うのよ」


 ○子は繊細で、わりと完璧主義なところもある。


「自分だけ『卒業証書の受け取り方がわからない』とかになったら、その場でパニック起こしそうな気がするんだよね……」

「それな~」


 ということで、夫婦の話し合いの結果、一日休ませ、翌日は登園、というサイクルを卒園式まで続けることで合意した。

 卒園式後、息子の終業式までは一週間あるが、そのときはまたどうするか考えようということで落ち着く。


 一日ごとに登園させるとか、感染対策になっている気はまったくしないけれど、こちらも仕事があるのだ。「在宅ワーカーなら子供見ながら仕事ができるね」と言う奴、とりあえず全員表に出ろ、という気持ちしかない。


(それができたら苦労しないんだって、そう口にする奴全員に説教したいもんなぁ……)


 ――夫婦共々在宅ワークを強いられて「子供がいたら仕事できないじゃん」と、日本……いや、世界中の多くの世帯が気づくことになるまで、実はあと一ヶ月もなかったりするけど、それはまたあとあとの話ってことで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る