2020年3月2日(月)-2

「というわけで、がんばってエロいシーンを書き上げましたが、実際にエロくなっているのかまったくわからないし、下手をしたら書き直しもありかもしれない。今日書いた文字数がすべてパーになるかもしれない危機感に、わたしはもう死にそうなわけです。わかりますかね?」

「お、おう。大変だね……」


 鬼気迫る顔で言われたところで、R18用語を連発する妻になんと言っていいかわからないのは世の夫の性であろう。

 現にわたしの夫も引き攣った顔してそう言うしかなかったわけだし。


 だがティーンズラブ小説作家としては、エロいシーンをエロく書けないのは死活問題だ。


「このジャンルはエロを目的として手に取る読者様も多いし、わたしゃそういうシーンにわりと力を入れて書いているタイプなんだよ。長編作品の初夜ともなれば、そのシーンだけに10000字を割くわたしのポテンシャルを舐めないでほしいわけだ」

「う~ん、言いたいことも気持ちもわかるんだけどさぁ、正直……、ごめんなさい、こういうときどんな顔すればいいかわからない」


 ――笑えばいいと思うよ。


「いいわけあるか馬鹿野郎ぉおおお――ッ!」


 90年代のロボットアニメネタをぶっ込んでいる場合ではない。

 本当に執筆できないし〆切は26日の木曜日。日付的にはあと23日あるが、土日祝日・卒園式・終業式以降は春休みということを考えると、実質フルで使える日数はあと9日!


「わたしの筆の速さを持ってしてもギリギリというかマジで間に合わない。というわけで明日以降は一日おきに休む、登園させる、という感じで回していく。いいね?」

「いいねもなにも、っていう話なんだけど……」


 仕事から帰ってくるなり、たかだか一日のワンオペ育児でキーッとなった勢いで、不満をまくし立てる妻を見つつ、夫は丁寧に言葉を紡いだ。


「正直おれは日中は仕事で、なにも協力できないから、ゆかさんの意見が最優先でいいと思うんだ。仕事が違えば……なんだっけ? 最近聞くリモートとか言うやつ? それができたら、二人で家にいられて、なんとかなったのかなぁとは思うんだけどね~」

「まぁ~それは夫氏の仕事柄、難しいのは重々承知しているよ」


 夫は建築や建設を扱う会社勤め。鉄骨で骨組みを作ったりそれを現場に運んだり組み立てたりする仕事なので、最近よく聞くようになったリモートワークなどどこ吹く風だ。

 現場に出ないとできない仕事もこの世には多くあふれるわけで、そういう仕事を担っているひとがいるからこそ、快適なインフラ生活を送れるのも間違いない。

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