Act.10

トゥイードルダムとトゥイードルディー

 双子の遠井兄弟、辰武と禎輔の部屋は隣り合っている。二階建ての家の、階段を上って左の部屋が辰武のもの、右が禎輔のものである。

 そっくりな双子は、部屋まで双子のようだった。間取りは全くの左右対称で、幼少期から同時に揃えられてきた家具は同じもの、その配置まで左右対称である。中学に進学した辺りからそれぞれの部屋にそれぞれの個性に合ったものも増えはじめたが、家具の配置は、お互いずっと変えずに最初に置いたままである。

 部屋の扉の真横の壁に、鏡を吊り下げているのも同じだ。


 ある夕方、辰武は自分の部屋に禎輔を呼んだ。


「お前、絵里香さんと別れたって言ってたよな。なにがあったんだよ」


 あれだけ仲のよかったふたりが唐突に別れた事態に、辰武は驚きを隠せなかった。部屋の真ん中に置いたローテーブルを囲んで、向き合って話を聞く。


「喧嘩でもした?」


「別に、よくある話だろ。単純に合わなくなっただけだ」


 禎輔ははっきりとは話さず、辰武から目線を背けていた。詳細が分からない辰武は、お節介に分析した。


「禎輔とは出生からの付き合いだから、お前の性格は結構理解してるつもりだけどさ。禎輔は結構勢い任せだから、些細なことでカッとなって『別れる』なんて言っちゃったんだろ。後悔してるなら、謝った方がいいぞ」


「分かったような口をきくな」


「これまでの経験上、大体そうなんだよ。俺と喧嘩するときもそうじゃん。お前はいつも、その場の感情で強すぎる言葉を……」


「双子だからって、なんでも分かったような口をきくなと言ってるんだ!」


 突然、禎輔が声を荒らげた。びくっとする辰武に、禎輔はクッションを投げつけ、立ち上がった。


「辰武には関係ないだろ。絵里香ももう関係ない」


「なんだよ、こっちは心配してるんだよ!」


 辰武も釣られて大声を出す。彼は禎輔に背を向け、ベッドの上で充電していた携帯を手に取った。


「愛莉ちゃんだって驚いて、心配してたよ。ほら……」


 愛莉とやりとりしたメッセージ画面を開き、禎輔に見せようと、振り返る。しかしそこにはすでに、禎輔の姿はなかった。


「……禎輔?」


 開きっぱなしの扉の横で、吊り下げた鏡が揺れている。そこに映った、ぽかんとした間抜けな顔の自分と、目が合った。

 辰武は部屋から顔を出し、廊下を覗き込む。隣の禎輔の部屋は、扉が閉ざされていた。


「なんだよ。分かった、もう口出ししないよ」


 辰武はそのまま首を引っ込め、部屋の扉を閉めた。

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