第7話 もうしない

「千鶴さんは子供ができなかった。最後まで人形を子供だと思って可愛がっていたね。」

「認知症だったから、本人の思うように最後まで過ごせたから良かったんじゃないか?」

「早く気付いてよかった。仏さんが可愛そうじゃ」

近所の人はいろいろ噂をする。本人にしか本当のことは分からないのに。

民生委員が何か分厚い本のようなものを読んでいた。読んで、こちらを向きすくっと立ち上がった。

「不思議だね。千鶴さんには生きているように見えいたんだね」

僕を、じーっと見つめ、訝しげに持ち上げブンブンと振ったかと思うと老婆の横にそっと寝かせた。

蓋が閉まり、真っ暗になった。シクシクとなく声が遠ざかり、カチッと音がする。幼い頃、おばあちゃんが亡くなったときのかすかな記憶が蘇る。焼却炉のスイッチが迷いなく押される。


僕は2回死ぬのか、一瞬、一回死んだのに、死の恐怖を感じた。


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