シャワーでは流せない

 熱いお湯を頭からかぶる。私の全てが綺麗さっぱり流れていく。シャワーの音に混じって外側から絶えず謝り続ける彼女の声が聞こえる。もはや私の胸には届かないし、耳にすら届きはしない。

 どうして喧嘩したのかは思い出せない。たぶんそこまで重要なことでもなかったし、いつもなら気にせず流せることだったはずだ。それでも、私は彼女を許せなかった。

「だからね、その、ほんとはあんなこと思ってないし」

「うん」

 彼女の声なんて右から左だ。今でも許す気はないのだから。

「だから……ごめんね?」

「うん」

 何度も同じようなことを繰り返してきたけど、ここまで重ねてきた苛立ちはゼロにはできない。もう我慢できない。水に流す気は、少しもない。


お題「流れる」300字

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