会いたい人

 家に帰ると、彼女の姿がなかった。彼女はいつだって、僕が帰ってくるまでには料理を作り終えていて、インターホンを押すとすぐ満面の笑みで僕を迎えてくれていた。それなのに――。

 テーブルには一枚の紙が置いてあった。けれどそこには彼女の筆跡はなく、ただ彼女がいつも好んで着ていたあの服に似た柄が印刷されているだけで。

 僕は椅子に力なくストンと腰を下ろして、その紙を見つめた。何となく、こうなることを知っていた気がする。そういう約束、というか、契約、というか。

 無意識に紙を折り始める。それは手裏剣でも鶴でも風船でもなく、強いて言うなら、形代のようなもの。そうすれば彼女にまた会える、そう感じていた。そう理解していた。


お題「紙」300字

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