結婚指輪

 大好きだった。世界で一番愛していた。たぶん、今までもこれからも、彼を超える人なんていない。

 付き合い初めて七年、そのうち二年は同棲までしていた。だから当然、結婚すると思っていた。案の定渡された結婚指輪は、いつまでも眺めていたくなるくらい美しい宝石だった。まだ、この左手の薬指にはまったままだ。

 ゆっくりとそれを外して、空にかざす。全く同じものを身につけていたはずの彼は、これをどうしたのだろう。あの女と逃げるための資金に替えてしまっただろうか。もう要らない私と一緒に、何の証だったかも忘れてしまっただろうか。

 ふたりで長い時間を過ごしたこの部屋の窓から、大きく振りかぶって、青白い月に向かって指輪を投げた。


お題「捨てる/棄てる」300字

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