300字SSまとめ 2022

たぴ岡

聖剣

 山の奥、誰もが忘れ去ってしまったこの場所。目の前に突き刺さっている大剣を見て、やはり全てが現実だったのだと実感する。あなたがいなくなってしまってから、あれがこの国を支配するようになってから、もう何百年。私があなたの代わりを探し始めて、もう何十年。何も進んではいない。

 大剣の柄に優しく触れる。あなたがこれを勇敢に振るっていたあの時代を思い返す。その記憶の中、今は失われてしまった平穏が息をしている。

 私だけが生き残ってしまった。あぁ、もう一度――。

 空を見上げる。真っ黒だ。あの頃の青さなんて欠片もない。どうしたらいいのだろうか。あなたがここにいたなら。ありもしないことを夢想してまた涙を流す。


お題「祈る」294字

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