第29話 救出作戦

「……シェルノ神が言ってたのってこれの事か。まぁいい。俺はユリエを助ける。あいつを魔族に堕とさせたりしない」

「お兄さん……私も手伝います」


 フローナがカミトの顔を見上げ真剣な面持ちでそう言った。フローナの手には六花弓が握られている。

 間違いなくこれから向かう先で彼女の弓は活躍するだろう。


「ありがとう。でも……最悪死ぬかもしれないぞ?」

「エドガーはこの街を滅ぼすと言っていました。それなら私は戦いたいです。あんまりお役には立てないかもしれないですけど……」

「……分かった。それじゃあよろしく頼む」

「はいっ。任せてください」


 フローナはカミトへ笑顔を向ける。

 一方シェラは無言で何かを考え込んでいる。


「シェラ。ユリエの素性が分かった以上……俺はお前に手伝ってくれとは言えない。だからお前はここで街を守っていてくれないか?」

「何を言っている? 確かにユリエ・ランドールが行った行為は許されない。だが、一考の余地はある。先程の映像に彼女が持っていた剣が映っていたが、あれは精神支配を行う呪われた魔剣だ。依然同じ物を見たことがあるから間違いがない」

「そ、そうなのか? いや、そんな気はしてたけど……」

「あぁ。だから……そうだな。執行猶予としてお前が監視するのであれば、私は問題無いと思っている。だから手伝ってやる」


 シェラの言葉にカミトはホッとため息をつく。

 正直『手伝わなくてもいい』と言ったのはかなり無理があった。恐らくグリンウッドには数多の魔物が蔓延っている。

 カミトとフローナだけでは確実に途中で殺されていた。


「それでは私は騎士に馬車の調達と街の防衛。そしてグリンウッドに攻める人を集めていくる」

「ん? 俺達だけで行くんじゃないのか?」

「馬鹿を言うな。こちらがユリエ・ランドールの記憶を見ていたのがバレている以上、グリンウッド周辺全域に魔物がいると考えるべきだ。そんな中に三人で向かうなど死ににいくようなものだぞ? 少なくとも私達がユリエ・ランドールを救助した後の逃走経路を確保する部隊が必要だ。カミトはここで待っていろ。すぐに帰ってくる」


 シェラはそう言うと走って部屋を出ていった。

「それじゃあ私も帰りますね~」


 シェラに続きアーシャも部屋から出ていく。

 それを見てカミトは小さくため息をついた。

「……色々難しいな」


 カミトの思考は色々な事実の発覚でぐちゃぐちゃだった。

 ただ一つだけはっきりしている事があるとすれば──それはユリエを助け出したいと言う気持ちだけだろう。


 それにエドガーの変な発言のせいでカミトは気恥ずかしさを感じていた。

(お、俺がユリエに他の感情を抱くって……)

 平静を取り繕っているが、カミトはそれが恥ずかしくて側にいるフローナから若干目をそらしていた。


「ところでお兄さん。ユリエさんの事が好きなんですか?」

「は、はぁ? 別に普通だよ。友達だ友達っ。友達を助けるのに理由なんて要らないだろ?」

「ふーん。お兄さん……」

 フローナはジト目をしつつカミトへにじり寄る。

「な、何だよ……」

「別にっ」


 カミトににじり寄っていたフローナは、プイっとカミトから視線を外し、若干頬を膨らませる。


「どうしたんだよ? 急に」

「なんでも無いです。というかこっち見ないでください」

「わ、悪い」


 突然のフローナの変化に困惑しつつ、カミトは目を逸した。

 同時に側にいたフローナがカミトに近づきカミトの頬に、柔らかい唇を押し付ける。


「なっ。何してんだ‼」

「別に……それよりお兄さん少しの間寝たほうがいいんじゃないですか? この後は寝る余裕も無いと思います」

「いや、さっきまで寝てたし……」


 カミトがそう言うとフローナは再び頬を膨らまし、カミトへ不満を伝えてくる。

 まるで子供のようだとカミトは思いつつ首を縦に振る。


「分かった。分かった寝る。だからそんなに怒らないでくれ」

「別に怒ってないです」


 そう言うとフローナはベッドに横になる。

 その隣にカミトが横になると、フローナがカミトの腕に抱きついた。


「ちょ、フローナ?」

「私だって……」


 フローナが何かを呟く。

 しかしカミトは状況を飲み込めていない為、彼女の言葉を聞いていなかった。

 更に追撃のようにカミトの視界を四角いウィンドウが覆う。


「ん? タイムディレイ……レベルアップ?」

『タイムディレイ』のスキルには元々レベルと言う概念がついていた。

 しかし全く上がる気配がないのでカミトはてっきりレベル一が上限だと思っていたのだ。

 それが突然このタイミングでレベル二へとレベルアップした。


(どうしてこのタイミングで?)

 カミトの思考は疑問で膨れ上がる。

 しかし、色々と考え事をしている内にカミトの瞼は重くなっていった。

 カミトが完全に熟睡を始め数十分後。部屋のドアが勢いよく開いた。


「カミト。準備ができたぞ。寝てないでついてこい」

「っ‼ お、おう。フローナも行くぞ? 起きろ~」


 シェラの声に飛び起きたカミトはカミトに抱きつく形で眠っていたフローナを揺さぶる。

「……ん、分かりました」


 カミトとフローナはベッドから降りると、シェラに従って付いていく。

 その途中、街が妙に活気づいている事に気が付いた。

「お前らっ! 俺達の街は俺達が守るんだ!」

「「「「「おーっ」」」」


 騎士や冒険者達は互いを鼓舞して気合を入れている。

 そして一般人は街の中心の広場に集まり、神へと祈りを捧げている。


「皆さん! 信仰とは愛なのです! 皆さんで我らが神シェルノ様へ愛を捧げましょう! 我らの信仰がシェルノ様への力となりますっ!」


 更に街の至る場所で商人達が書き入れ時と言わんばかりに武器の宣伝をしている。

「な、なんだこれ」

「ついさっき放送が流れただろう? 聞いていなかったのか?」

「え? そんなの流れてたか?」

「一体何をしていたんだ? ……まさかお前達」


 シェラがカミトとフローナを交互に見て目をパチクリさせる。

 彼女が部屋に入ってきた時にはカミトとフローラはベッドの上で横たわっていた。それを見ていたシェラが今、一体何を想像したかは明白だろう。


「ち、違うぞ!」

「そうですっ! まだそんな事はしてないです!」


 シェラはフローナの言葉に眉をしかめるが、小さくため息をつく。

「この街は魔族に狙われている。だから皆で街を守ろう……と放送したのだが。まぁいい。この馬車に乗れ」


 数十台の馬車の列の先頭にたどり着いたシェラは馬車の荷台を指差した。

 どうやら背後に続く馬車はグリンウッドの街に向かう騎士が乗っている馬車なのだろう。


「俺達が先陣なのか?」

「そうだ。私の魔法である程度の魔物は撃ち落とせる。それにフローナの弓がある。問題無いだろう。それに秘策がある。早く乗れ」


 焦れったそうにカミトの背中を押したシェラは馬車に乗り込んだ。続けてカミトとフローナも馬車に乗り込む。

 するとすぐに馬車が動き始めた。

 街の出口に設置されている巨大な大扉が駆動音をたてながら開いていく。

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