第15話 冒険者ギルド
冒険者ギルド。
魔界化以前の世界では簡単な依頼などが溢れており、低レベル冒険者も受け入れていた。
しかし世界が魔界化するのと同時に魔物の討伐を請け負う冒険者ギルドは大きく変貌を遂げた。
冒険者が持ち込む魔道具、魔物から回収したアイテムなどの危険度は跳ね上がり、冒険者ギルド自身が防衛手段を保持しなくてはいけなくなった。
そのため冒険者ギルドには一国の軍隊に匹敵する防衛手段が備わっている。
さらに無駄な死を防ぐために入場制限と加入制限を儲けられ、魔界化以前の世界で言うCランク冒険者が最低ランクのFランク冒険者に降格させられた。そしてそれ以下の冒険者は皆ギルドを脱退させられた。
つまり冒険者ギルドに加入するには、かつての世界でCランク冒険者と呼ばれていた者達と同等の戦闘力を保持する必要があるのだ。
Cランク冒険者は一般的に中級冒険者と呼ばれ、大抵の魔物は一人で倒せる優秀な人材と言われていた。
その彼らが最低ランクの扱いになるほど、この世界の魔物は強力になっている。
「……なるほど。かつてのCランク冒険者と同等……か。どうやって力の証明をするんだ?」
「簡単だ。今のFランク冒険者に匹敵する戦いをすればいい。要するに対人戦だ」
「……俺に勝てるか?」
正直カミトには元Cランク冒険者達に勝てる気がしなかった。
一応一ヶ月のユリエとの生活の中でユリエとの対人戦練習を何度かしたことがあるが、当たり前のようにカミトは全敗していた。
ユリエの強さがどのレベルなのかカミトには分からないが、ユリエと善戦すらできないカミトには冒険者との対人線においても勝ち目は無いだろう。
実際シェラもカミトの質問に首を振った。
「無理だな。とりあえずDランク以上の冒険者の従者として町の外に出て経験値を積む事から始めないといけない。お前には戦闘経験が不足している」
「Dランク冒険者か……。そんな奴いるのか?」
「いる? 目の前に」
「え? お前?」
「そうだ。私も一応冒険者の資格は持っている」
シェラは懐に手を突っ込むと一枚のカードを見せつけてきた。
特にデザインのないカードにはシェラ=アレクシア・フォン・メルシアという名前の隣に大きくDと書かれていた。
「Dランクって事は魔界化以前だったらAランク冒険者と同等って事か? すごいな」
「ふん。今のこの世界においては最底辺ランク扱いだ。Cランクが一人前だと考えるなら私は一人前以下だ」
妙に謙遜するシェラは突然ピタリと足を止めた。
シェラの視線の先にはいかにもRPGにありそうな外観をした冒険者ギルドが一軒。
その入り口を塞ぐように立つ二体の巨大な鉄でできたロボットが立っている。
「これは?」
「魔導兵器だ。魔力を流すことで駆動する人工の魔物。最近開発された新技術だ。王都には既に数百体配備されている」
「へー。これがあれば魔王だって倒せるんじゃないのか?」
「無理だな。魔導兵器内の魔力を吸われて終わりだ。もしくは操縦権を奪われ逆に襲われる」
「そうなのか」
カミトは魔導兵器の完成度に感心しつつ魔導兵器の足に触れてみた。
その瞬間カミトの頭部に魔導兵器の拳が落ちてくる。
「痛っ! こいつ殴ってきたぞ!」
「自己防衛行動だ。ほら、そんな馬鹿な事をしてないで早くギルドに入るぞ」
シェラはカミトの手を引き冒険者ギルドへ入った。
冒険者ギルド内はカミトの想像と違い整然としていた。荒れ狂った冒険者も暴れる冒険者もいない。
カウンターに立つ受付嬢は暇そうに大あくびをして、新たな客人であるカミト達を見た。
強い者以外排除した冒険者ギルドに訪れる者は限られているせいだろう。
僅かにいる冒険者達は休憩スペースで雑談をしており、魔物討伐へ行こうとはしていない。
「ところで入場制限の確認はしないのか?」
「もう終わっただろう? 今の魔導兵器がお前の頭部を叩きつけた時に終わっている」
「あの時か!」
「そうだ。ともかく街の外への外出許可を貰おう」
シェラはカウンターへ向かうと受付嬢へ声をかけた。
「外出許可を。後ろのは同伴者だ」
「ひ、姫様」
と言ったところで受付嬢は自らの口を押さえた。
恐らくシェラが姫であるという事実は他言無用の話なのだろう。
「す、すみません!」
受付嬢が素早く頭を下げるがシェラは静かに首を振る。
「構わない。それより早く外出許可を貰えるか?」
「は、はい。直ちに……今申請中なのでしばらくお待ち下さい」
そう言って受付嬢は目を閉じ、瞑想を始めた。その間にカミトはシェラに耳打ちをする。
「何してるんだ?」
「テレパス系の能力者だ。本部との連絡をしているのだろう」
「許可が降りました。それではお怪我のないようお気をつけて」
カミトとシェラが会話をしている内に許可が降りたらしく、受付嬢はうやうやしく頭を下げていた。
すぐにシェラは頷くとカウンターの前に突き出された一枚のカードを受け取った。
「じゃあ行くぞ。カミト。今日は二、三体のゴブリンを倒して報酬を貰う。その金でお前の個室を借りる」
「……その金は貯金に回せないのか?」
「カミト……。急ぎたいのは分かるが良質な睡眠は大切だぞ。死にたくないならな」
「……分かった。そうだな。睡眠不足が原因で魔物に殺されたら元も子もないしな」
カミトは諦めのため息をついてシェラの歩く後を追う。
冒険者ギルドからすぐ側に街の外壁は存在する。
外壁には特定の間隔で小さな魔法陣が設置されており、その内の一つにシェラはカードをかざした。
次の瞬間、カミト達の背丈と同じ程度の大きさに魔法陣が巨大化する。
「これは?」
「特定の魔力を付与されたカードをかざす事で壁面透過が出来る魔法陣が起動した」
「……壁の中を通れるのか?」
「そうだ。このまま外に出るぞ」
シェラが魔法陣に向かって歩くと、彼女の体は壁に埋め込まれる様に入り込んでいった。
「ほら、お前も入ってこい。早くしないとカードから付与された魔力が消えて壁に埋め込まれるぞ」
「ま、まじか」
カミトは慌てて壁に飛び込んだ。真っ暗な壁の中を突き進むこと僅か数秒、あっという間に外の世界へ飛び出した。
外の世界は壁の中と全く違い自然に溢れた世界。
昔は人が住んでいたと思われる建物が大量に並んでいるが、自然の回復力に呑まれ廃墟と化している。
以前街の中に入った際は馬車の中にいたので外の景色は見えなかった。そのため街の外が崩壊した街の跡地になっているとは知らなかったのだ。
「しかし……ここら辺は死角が多いな」
「ほう? よく見ているな。戦いの無い世界に住んでいたという割にいい着眼点だ」
「まぁな」
(ユリエに戦闘の際に気をつける事は一通り教わっていたからな……)
今思えばユリエには色々な事を教わっていたのだと思える。日常会話の何気ない部分でもカミトに欠如していた様々な弱点をユリエは指摘してくれていた。
それらはカミトが自分自身の身を守る為に必要だとも言っていた。
もしかしたらユリエはいつかカミトから離れる日が来るのを予知していたのかもしれない。
彼女との日々を思い出すだけでカミトの口角が緩んでいく。
「何をニヤニヤしているんだ?」
「ん? ちょっとな。それより、そこに……魔物の気配がしないか?」
カミトはすぐ正面の家の廃墟を指差す。
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