溺 愛
曇天である。
夜にはパラパラと降っていたようで、舗装されていない土はまだ濡れている。
助手席に座った
乗っているのは航一の車で、実家に車で帰るつもりでいたのだろう、持ち帰る電化製品や本などが後部座席に置かれたままだった。どうやら
それだけ
まして、なぜ、元カレのハクシに
「……事情をね、ハクシから
ぼそりと綾が言う。ぼそり。あえて
「あのね、マミン……ハクシの中学校時代の担任の先生……
「え? どういうこと?」
「あたし……あれから、いろいろ、翼クンのこと調べてみたの」
平然と
「……だって、マミンたら、翼クンと別れるなんて言い出すしさ……告げ口したあたしのせいかも……って悩んで……」
「あ!」
「だ、か、ら、航一さんにも頼んでね、こっそり、“翼クン情報”を集めてもらったら……」
「え? そこまで?」
「だって……マミンには、マミンらしくいてほしいから」
「・・・・・・・?」
「……マミンは……あたしの初恋のひとだから……あ、言っちゃった」
てへてへと舌を出しながら、ふっと笑って頬を赤らめた
ふいに
なるほど、あの頃、『あたし、大きくなったら、マミンのお嫁さんになってあげる……』と、何度も何度も何度も
さらに、こんなところまで妄想は拡がってきた……
自分のいる商店街の近くだから、航一との付き合いを決めたのではないのだろうか……と、
「……あたしね……死ぬまで言わないつもりだだたけど、いまでも、マミンのこと、大好きよ……あ、気持ち悪がらないで! あたしは航一さんと結婚する……それは変わらないから」
「・・・・・・!」
「これって、うまく、言えないけど、一種の、溺愛症候群のようなものかしらね。あ、ほら、伯父のところでコピーライティングの仕事も手伝ってたから、あたしの造語! 手に入らないからこそ、マミンのこと、
ドライブに誘ったのは、長い間秘めてきた感情を告白するためなのだろうか……。
いやむしろ、心地よい、草原の風のような爽やかさが真美の
ギィッと響いたブレーキの音は、まぎれもなく
急に大きな声が真美の
「さあ、着いたよ」
山の上である。
とはいえ山を切り砕いて造成した住宅地よようだった。
高層ビルはひとつも視界にはなく、戸建ての家が建ち並んでいた。
「……ここ、翼クンの実家なの……彼とお母さん、もう六年会ってなくて、絶縁状態なんだってさ」
まるで探偵さんのような口調で言った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます