第2話 大っ嫌いな弟

ボクの家族は、あいつと母さん、弟、そして婆ちゃんと別居している爺ちゃんの5人で暮らしていた。


あいつに殴られてばかりいるボクは、弟が殴られているのを1度も見た事がない。それが余計、不公平感を感じさせるのだろう。


弟はボクと違い要領よく立ち回ることに長けた子供だった。両親の誕生日、父の日、母の日、勤労感謝の日。その度に子供ながらプレゼントを用意して親に渡す。


そりゃ親にとっちゃ可愛くて仕方ないだろう。


ボクはそんな弟を冷めた目で見ていた。


弟が親の為にプレゼントを用意しているのを見て、2番煎じになるのはイヤだと思い、あえてボクは何もしなかった。


「ありがとう~鉄也!母さん嬉しいわ~!」


「お母さんいつもありがとー!」


「え?公一はないんか?」


ボクは聞いていないふりをして遊んでいた。本当は聞こえているけどね。


「本当に鉄也は気が効くな~!」


そりゃ可愛くて仕方ないだろう。ボクはそんな弟が大嫌いだった。


3年遅くアイツらとsexしてできた弟の鉄也は、学校でよくイジメられていた。


「おいっ!和夫がまた鉄也泣かしてるぞ!」


ボクの友達が教えてくれると、決まって鉄也の泣き声が1階から聞こえてくる。島の小さな小学校だったので、1クラスしかなく上級生だったボクは2階だった。


「あの野郎ーー!」


そう言って1階に駆け出すボク。あんなに嫌いな弟なんだから放っとけばいいのに・・・


でも、何故だか弟がイジメられて泣いている声を聞くと、ボクの何かが傷つけられている感覚に陥る。そうなると、考えるよりも早く体が反応してしまう。


「こらーーー!和夫!お前エエ加減にせーーよ!」


そう叫び声を上げながら和夫に突進し、ねじ伏せて馬乗りになるボク。


「すいません!すいません!公一さん!」


謝られるとそれ以上何もできない。


「お前、次やったらホンマにしばくからな!」


ま、和夫は次も、またその次もやるんだけどね。謝られると同時に次の授業のチャイムが鳴る。


ボクは和夫の胸ぐらを掴んでいた手を離し、2階の教室に戻ろうと歩き出し、階段に差し掛かろうとした時。


「バーカ!バーカ!」


和夫が挑発するような動きでボクをおちょくる。


「お前、こら!次の休み時間覚えとけよ!」


そして、次の休み時間に和夫を詰める。実際、一夫を泣かせた事もある。またそれを恨んで和夫は鉄也をイジメる。


ボクが和夫を詰める、和夫を泣かす、和夫が鉄也をイジメる・・・


毎時間ではないけど、この無限ループ。


ほとほとボクも疲れはて、この無限輪廻から抜け出すべく、嫌いな弟にケンカのやり方を教えようと何度した事か・・


「殴ったりなんかしない!」


弟は頑としてボクの言う事を受け入れようとはしなかった。


だから、お前の事嫌いやねん!


「兄ちゃん助けてくれて、ありがとう!」


弟からそんな言葉ただの1度も聞いた事なかった。まぁ、別にそんな言葉なんて期待していない。ただ単に、自分の為に助けていたようなもんだと思う。


これはボクだけの偏見かもしれないけれど、ボランティア活動も結局は自分の為。人の為に頑張っている自分っていう自己満の為といったら言い過ぎだろうか?



『偽』



人の為と書いて『偽』。ボクはこの漢字を考えた人に強いシンパシーを抱いてしまう。この漢字を考えた人の人生のバックボーンを知りたいなぁと思った時期もあった。勿論、刹那的に思っただけなので、真剣に探ったことなんてなかった。


ボクが殴り方を教えようとしても、絶対に聞かなかった弟。そのくせ、ボクとケンカになったら躊躇なく殴ってくる。お前、それを和夫にやれよと殴られながらいつも思っていた。そんなボクは弟の事を殴った事は、ただの1度もない。



そう1度も。



なんか、それはやっちゃいけないような気がしていた。そうはいっても、ケンカの度合いによってはボクも頭にくるわけで。そんな時はいつも、弟をねじ伏せて馬乗りになり、拳を弟の顔ギリギリに床に打ちつける。



「お前、エエ加減にしとけよ!」



それでだいたい収まる。


弟は少し変わっていて、小さい時から天気予報やニュースを食い入るように見ては親にアレコレ話していた。


「鉄也はしっかりしてるな~!」


あの言葉を耳にすると、どれだけボクが傷付いていたか、あの人たちは気付いてなかっただろう。

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