第15話
数日後。
蓮は一人遠くの街にいた。
どのくらい歩いたか、蓮はとにかく逃げたかった。今自分の置かれてる状況から、現実から。
(寒いしお腹も空いた。あっ、でもこのまま死んでもいいかな)
蓮は絶望していた。そんな事を考えながら路地裏でダンボールに包まりながら眠りこけていた時。
トントン
誰かが蓮の肩をたたいた。
「ちょっと君大丈夫?」
そこには20代くらいの若い男が立っていた。
「だれですか」
蓮は話す気力もなくなっていた。
「君行くとこないの?」
男はしゃがんで蓮の顔の近くまで来た。
「ほっといてください」
「行くとこないならうちおいでよ」
そう言うや否や男は蓮の腕を掴み半ば強引にどこかへ連れて行く。しかし蓮には抵抗する力も残っていなかった。
おぼつかない足取りでしばらく歩くと、男は蓮をアパートの一室に連れて入った。
男は蓮をベットに座らせると、机にあった買い物袋から何かを取り出した。
「お腹空いてるでしょ、はい」
そう言って蓮にパンを渡そうとした。
「いらない」
虚な目で視点も定まらない蓮は無気力に腕をだらりとさせてただ座っていた。
「ほら、君辛そうだから。何かあったんでしょ?俺でよければ話聞くよ?」
そして、男が蓮に毛布をかける。さっきまで絶望していた蓮だが男のあまりの優しさに、ほんの少し心を開いてしまう。蓮は差し出されたパンを少しずつかじりながら部屋を見渡す。
(大学生かな。悪い人ではなさそう)
「どう?落ち着いた?」
「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか」
「実はさ、俺も君みたいな時があってね。行くとこも頼る人も居なくて。そんな時助けてくれた人がいるんだ、だからほっとけなくてね」
「そう‥‥ですか」
「名前なに?」
「蓮です」
「蓮って呼んでもいい?」
「まぁ、はい」
「蓮はさ、どうしてあんな所にいたの?」
「色々あって‥‥」
「もしかして死にたいとか思ってた?」
「なんで分かるんですか」
「そんな顔してたから。よかったら話聞くよ?」
蓮は今までの気持ちを吐き出した。
「そんな辛い事が‥‥。でも、もう大丈夫だよ。そんな辛い事、俺が忘れさせてあげるよ!」
男は突然立ち上がると、なにやらカバンから取り出している。そして、蓮の横に座って顔を覗いた。
「何もかも忘れたいよね?」
魔の言葉だ。そう言って蓮の腕を掴む。
「何するんですか?」
「楽になれるよ、もう辛い思いしないで済むんだよ」
蓮はその言葉に誘われてしまった。
数分後には今まであった嫌な事は全て忘れて、気力を取り戻した蓮。
そんな事もあり、男の家に入り浸る日々を過ごしていたある日。
男は唐突に切り出した。
「蓮にあげた薬を買うのにお金が必要なんだ、でも俺は大学もあるし働く時間がない。いいバイトがあるからしてくれない?そしたらもっと薬が買えるよ!」
この時の蓮は正常な判断が出来なくなっていた。
「分かった、何すればいい?」
「言われた場所に荷物を持って行くだけだよ」
「それだけでいいの?」
「簡単でしょ?いっぱい運んだらいっぱい薬あげるよ!」
蓮は薬欲しさにバイトをする事にした。
「じゃあここに行ったら荷物もらえるから、それ持って言われた通りにしてね」
男はそう言うと住所を書いた紙を蓮に渡す。
蓮はバイトをしながら受け取ったお金を男に渡し、薬を貰う。そんな毎日を送るようになっていた。
数週間経ったある日、いつものようにバイトをしていると、誰かに声をかけられた。
「蓮?」
「だれ?」
「やっぱり‥‥」
そこに立っていたのはアイビーだった。だが蓮はアイビーの顔を忘れていた。
「‥‥お前今まで何やってたんだよ!!」
アイビーはその場で泣き崩れた。
「なんで泣いてんの?俺何かした?」
蓮は戸惑っていた。
「‥‥所長が‥‥死んだんだよ‥‥」
アイビーは俯いたまま言った。
「‥‥‥‥‥!!」
その言葉に蓮は今までの記憶が頭の中を一気に駆け巡った。
「そんな‥‥」
蓮は頭が真っ白になっていた。
「お前が出て行った後自宅で自殺した‥‥」
アイビーは泣き続けていた。
「ありえない。信じないから」
そう言うと蓮は走り出した。
「どこいくんだよ!」
アイビーは蓮を追いかける。
(あれっここ何処だっけ、俺何やってんだっけ)
立ち止まる蓮の目からは大量の涙がこぼれ落ちる。
(なんで涙が出るんだろ)
「蓮!帰るぞ!」
アイビーは自分を奮い立たせていた。
「帰らない、俺の家はない」
「お願い」
「俺が言ったんだ、二度と会わないって。おじさんにはそれが一番辛いって知ってたから」
「蓮‥‥」
「自分ばっかり辛いって思ってた。命を持って償えって。俺が殺したんだ」
「だからって今のお前を見たらもっと悲しむぞ」
「だから帰れないんだよ‥‥うっ」
蓮の悲鳴にも似た泣き声が響き渡る。
「ここで帰らなかったら一生後悔する。約束したからなお前の側にいるって」
アイビーはそう言うと蓮の手を引き、事務所まで連れて帰ろうとした。
とにかく歩いた、アイビーはずっと蓮の事を探してこの街までやって来ていたのだ。
(俺のせいだ)
蓮はそう思いながら震えていた。
アイビーは蓮の手を一度も離さなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます