第12話
翌日、蓮は警察署に向かった。
(緊張するな、やっぱアイビーについて来てもらった方がよかったかな)
そんな事を考えていたら着いてしまった。蓮は警察署に入った事がない、小さい頃に来たかもしれないが記憶がないので初めてと同じだ。
ドキドキしながら入り口の前に立っている警察官に軽く会釈をしながら自動ドアを抜けると、よくドラマで見るような雰囲気ではなく業務的な、なんというか役所のような雰囲気だった。
蓮は受付らしきところにいる人に声をかけた。
「あのう‥‥すいません鈴木さんって方いますか?」
「何課か分かりますか?」
「えっと、俺の両親が亡くなった時に施設に連れて行ってくれた人らしいんですけど、それしか分からなくて」
「少々お待ちくださいね」
そう言われて近くにあった椅子に腰掛けた。
(あんな少ない情報でわかるものなのかなぁ)
不安そうに待つ事数分。
「こんちには」
そう言って現れたのは白髪混じりの優しそうなおじさんだった。
「えっと‥‥鈴木さんですか?」
「そうだが、君は?」
「俺は、蓮って言います。覚えてないですよね?」
その時一瞬鈴木さんが顔を顰めたように見えた。
「うーん。蓮くんか、随分大きくなって」
「分かるんですか?」
「そうだな、いつか私の事を尋ねて来ると思っていたからね」
「‥‥それって両親の事ですよね」
「どこから話せばいいのかな」
「知ってる事、全部教えて下さい」
「いずれ分かってしまう事だ、聞く覚悟は出来てるかい」
「はい」
そして、鈴木さんは蓮の隣に腰掛けると、ゆっくり話始めた。
「あれは寒い冬の日の事だった。前も見えないほどに雪が降っていてね、ちょうど私が夜勤で勤務していた時だった。通報が入り現場に駆けつけると、そこには血を流して倒れている二人の男女がいた。もう分かるよね」
「‥‥‥」
蓮は眉間に皺を寄せながら口をギュッと結んだ。
「強盗だった。おそらく、君のお父さんは君と君のお母さんを守るために犯人を外に追い出して戦っていたんだと思う。しかし騒ぎに気付いた君のお母さんが外に出てしまった。そこで二人は刺されてしまった」
「‥‥‥」
「まだ小さかった君を署で何日か預かった。そのあと施設に連れて行ったんだが、君に説明するにはまだ早いと思った私はつい嘘を伝えてしまった」
「‥‥そうだったんですか」
本当はもっと聞きたい事があったはずだが、今はそれより頭を整理するのに時間が必要だった。
「辛い事聞かせてしまったね」
「あの、両親の遺品ってありますか」
「アルバムだけは私が保管しているよ。あとの物は残念だけど」
「‥‥もらえますよね」
「もちろんだよ、少し待ってね」
そう言って鈴木さんは遺品を取りに行ったのだろう。何分ぐらい待ったか蓮には時が止まって感じた。
「待たせたね」
鈴木さんの手には薄い一冊のアルバムがあった。鈴木さんは蓮にアルバムを手渡す。
「じゃあ失礼します」
蓮はアルバムを受け取ると、その場では開かずにそのまま立ち上がり鈴木さんの方を振り返る事なく署を出て行った。
「ごめんな」
鈴木さんが蓮の背中に向けてポツリと呟いた。
ピンポーン。
蓮はアイビーの家に来ていた。チャイムを押すとすぐにアイビーは出てきた。
「夜って言ったろ?たまたま今日は早めに帰ってきたからいいけどさ‥‥って大丈夫か?」
蓮の目は虚ろで力なさそうに立っている。
「まぁ入れよ」
蓮は部屋に上がると椅子に腰掛ける。アイビーは蓮が話し始めるまで待っていた。
しばらくして口を開く蓮。
「すいません、俺一人で見る勇気なくて」
「その手に持ってるやつの事か?」
「はい、話聞いてくれますか」
「おぅ」
蓮はこの二日間の事を話した。
「驚いた、そんな事があったなんて」
流石のアイビーもなんて声をかけたらいいのか分からないといった様子だ。
「これが唯一の遺品らしいです」
「一緒に見てやるよ」
アイビーはそう言うと蓮の横に座る。そして二人でゆっくりアルバムを開く。そこには蓮が小さい頃の家族写真があった。1ページ1ページゆっくり見る。最後のページには家族以外の人と撮ってある写真も入っていた。
「おい、これって」
それを見たアイビーが何かに気付き言った。
「えっ」
蓮の手が止まる。
「お前知ってた?」
「知らないです」
そこには若い頃の蓮の両親と一緒に写る所長の姿があった。
「俺は本当何も知らないなぁ」
「所長に聞くのか?」
「しばらく頭の中を整理したいです」
「そうだな」
「本当は色々計画立てたかったけど、今日は帰りますね」
「おぅ」
そう言うと蓮はアイビーの部屋を後にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます