第11話 


 結局アイビーの家で朝を迎えた蓮。

 

 (そういえばアイビーの部屋だったな)


 蓮は椅子で寝て体が痛くなっていた。


 (誰もいない。それにえらい殺風景な部屋だな)


 蓮はすっと立ち上がり、徐に冷蔵庫を開ける。

 

 (げっ、水しかねーじゃん)


 喉がカラカラだった蓮は仕方なく水をもらう事にした。水を半分ほど飲み干すと今度は窓の外を見た。しかし、そこには知らない景色が広がっていた。


 (うん、帰り道分からないわ)


 アイビーに電話するも出ない。蓮はその殺風景な部屋でしばらくボーっとしていた。


 (ん?ちょっと待てよ、よく考えてみると、家は火事で燃えてなくなってるはずだよな)


 何を思ったか突然思い出した蓮は疑問に頭を抱えていた。その時アイビーが帰ってきた。


「おー起きてたか」


 無機質なドアを開け、買い物袋を持って帰ってきた。


「あの、昨日はすいませんでした」


 申し訳なさそうに蓮は謝った。


「辛いならやめていいぞ」


「‥‥‥」


「ここでやめるなら昨日聞いた事や今までのお前の行動は忘れてやる。でも、これ以上続けるなら後戻りは出来ねーし、お前に危険が及ぶ事だってあり得る」


「‥‥俺は」


「まぁじっくり考えたらいい」


「はい。ところで‥‥帰り道教えて下さい」


「そうだな」


 アイビーは蓮が分かる所まで送り届けると調査に戻った。蓮が階段を上がっていると所長が事務所から覗いた。


「朝帰りかー?彼女でも出来たか?」


 冷やかすように言ってくる所長。


「違うし!」


 今の蓮にはそう返事するので精一杯だった。


「なんだ、違うのか」


 少し残念そうにボソッと呟く。


 蓮は部屋に籠り頭をフル回転させてみた。


 (ダメだ、俺の頭じゃ‥‥。誰か両親の事を知ってそうな人いないかな‥‥‥そうだ!)


 蓮は何かを思い出し、再び家を飛び出した。電車を乗り継ぎ駅を出るとある場所へ向かう。


 (着いた。懐かしーなぁ)

 

 そこは蓮が幼少期を過ごした施設だった。

 懐かしさに感動しつつも、塀の外から中を覗いていると。

 

「蓮ちゃん?」


 年配の女性が話しかけてきた。


「え?真理子先生?!」


 それは昔蓮がお世話になった施設の先生だった。


「わー久しぶり!大きくなったね!」


 目を細めて笑う先生に蓮は嬉しくなった。


「先生も元気そうで!」


「今日はどうしたの?」


「ちょっと聞きたい事があって来たんだ!」


「聞きたい事?まぁ立ち話も何だからこっちおいでよ!」


 そして、蓮と先生は施設の中で話をする事にした。


「四年ぶりぐらいかしら?」


「俺が小学校卒業してからだからそのくらいだね」


「家族の方とは仲良くやってるの?」


「うん、甘やかされてる」


 蓮はそう言って笑った。


「よくしてもらってるのね。先生安心したわ」


「それで、ちょっと教えてほしんだけど」


「なにかしら?」


「俺の両親の事なんだけど‥‥」


 まさか蓮が両親の事を聞いてくるとは思っていなかったのだろう、少し戸惑った様子の先生。


「何が知りたいの?」


「俺が小学校の頃、先生に聞いた事あるじゃん?どうして両親が死んじゃったのかって」


「うん‥‥それで?」


「なんで嘘ついたの?」


「えっ?嘘?なんのこと?」

 

 先生はキョトンとしていた。


「詳しい事は言えないけど、俺家に行ったんだ。そしたら家は燃えてなかった」


「住んでた家の事?行ったの?ごめんね、蓮ちゃんの言ってる事が分からないわ」


 先生は困った顔をしていた。


「先生、本当に何も知らないの?」


「蓮ちゃんがうちに来た時の事は覚えてるわ。確か、火事でご両親が亡くなったけど、奇跡的に蓮ちゃんだけ助かったって言って警察の方が連れて来たのよ」


「‥‥そんな」


「何かの間違いじゃない?」


「そうなのかな‥‥」


「そんな落ち込まないの、ちょっと待っててちょうだい」


 先生はそう言うと、部屋を出た。


 (俺の見間違えだったのか?でも名義人はお父さんだし。でも名前がたまたま同じって事もありえるのか)


 5分ほどして先生は戻ってきた。


「ごめんね、お待たせ」


「うん」


「蓮ちゃんを連れて来てくれた警察の方の名前よ、本当の事が何かは知らないけど、直接聞いてみたらどうかしら?」


 そう言うと先生は名前を書いた紙を蓮に渡した。


「先生、ありがとう」


「先生はいつでも蓮ちゃんの幸せを願ってるからね」


 そう言って先生は蓮を強く抱きしめた。


「また必ず来るから!」

 

「そう言ってくれてありがとね」


 蓮は覚悟を決め、施設を後にする。すっかり日も暮れ、電車に揺られながら紙を見つめていた。自宅に帰る前に蓮はアイビーに電話をかけた。


 プルルルル。


「はい」


「俺‥‥知りたいです。胸がザワザワして気持ち悪いから。やれるとこまでやります」


「分かった。できる限り協力する」


「ありがとうございます」


 蓮はアイビーにそう言ってもらえて心強かった。


「明日うちに来れるか?」


「多分大丈夫です」


「夜な」


「分かりました」


 蓮は知りたかった、どんな結末が待っていようと。

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