第46話 北風系ヤンデレと逆・逆襲1

「............ん............。ここは......」


目を覚ますと、見覚えのあるコンクリ打ちっぱなしの壁に囲まれた薄暗い部屋。


......どうやら俺は連れ戻されてしまったらしい。

明らかに拷問部屋だとわかるそこは、俺がかつて彩咲ささから逃げ出す直前に捕らえられていた部屋だ。


服を脱がされてパンツ1枚の姿で、壁に掛けられた鎖に頭の上で両腕を拘束されて、半分座ったままの姿勢で監禁状態にされている。


思い出せる最後の記憶は、真霜ましもさんが彩咲に手錠で拘束され、自分も言葉だけで無様に動きを封じられたところまで。

......いや、そのあとに彩咲に強く抱擁されて、あまりの恐怖にパニックに陥ったところまで......かな。


そのまま意識を失ってしまったのか。ダサすぎる......。

そんな自分の情けなさに打ちひしがれながらも、状況を確認しようと仄暗い部屋の中で視線を動かす。



「......っ! 真霜さん! 真霜さん、大丈夫っ!?」


部屋の端、俺と同じ壁の左側、離れたところ真霜さんは拘束されていた。

姿勢も俺と同じく、腕を頭の上で鎖で拘束されて、半ば吊るされるような状態。


真霜さんも俺と同じく肌色だった。

正確には、ブラとパンツだけにされて、それ以外の衣服を着用してない状態でぐったりと吊るされてた。


慌てて声をかけるも、気を失っているようで返事はない。

見たところ肩は上下しているし、無事は無事なんだと思う。


ほんの僅かだけど、一安心できた。


ただ、腕や肩のあたりが青くなっていて、かなりの暴行を受けたことを物語っている。

自分のこと以上に、自分のせいで真霜さんをこんな危険な状態にしてしまったことに、やるせなさと憤りを禁じえない。


と、自分の内に感情が昂ぶるのを感じていると、この部屋の主が重々しい鉄製のドアを開けて入室してきた。



「あ、なぁくん起きたんだね」


「ひっ............。さ、彩咲......」


目の前には光を飲み込むような漆黒をたたえた双眸が俺を見下ろし、艶のある口元は三日月のように妖しく歪んでいる。

部屋の暗さと彩咲の妖しい表情が、どう見てもホラー感しかなくてついつい短い悲鳴を挙げてしまう。


「『ひっ』て......失礼ね。まったく。まぁいいや、おはよ♪ 具合はどうかな?」


「お、俺は別に......。それより真霜さんを......『俺、ですって?』......」



ひっ。

彩咲の低い声に、またしても小さく悲鳴を上げてしまう。


の心身は、未だに彩咲から与えられた苦痛と快楽による支配を一切忘れることなく、むしろ骨の髄まで浸透していて、無意識に恐怖と服従心を掻き立てられるままらしい。


って、ダメだダメだ、彩咲の前で気を抜くと、心の中での一人称まで弱気に戻ってしまう。

の意識はしっかり保たないと。



「何? そんな女とちょ〜っと同じ時間を過ごしたからって、自尊心とか取り戻しちゃったのかしら? ねぇ夏凪晴ななは、あなたには自尊心なんていらないのよ? 思い出して? あなたは彩咲のペットとして生きていくことこそが幸せなんだから。自尊心なんてあなたの幸せを妨げるだけ。むしろ自分のことを動物として、獣として認識してればいいの。昔教えてあげたでしょ? 自分のことは『僕』って呼ぶの。『俺』なんて強気にでちゃだめ。っていうか、彩咲が抱きついただけでホントに気絶するとかふざけすぎだから。彩咲、めちゃくちゃ傷ついたよ」


「..................」


「もともとはなぁくんはしっかりばっちり薬漬けにして、脳みそをスカスカにしてあげて、彩咲の身体のことだけ考えるようにしてあげようと思ってたんだけどね。だけど彩咲も乙女なんだよ。なぁくんが星迎真霜ほしむかえましもに洗脳されて、いちゃいちゃさせられてるのを見て気が変わったの。なぁくん自身が心から彩咲に服従したいって思うようになって、忠誠を誓って愛してくれてから、ペットにしてあげようってね。だからそのために、業腹だけど......本当に業腹だけど、星迎真霜の協力は必要そうだね。あの女の目が覚めたら、まずはなぁくんに彩咲と子作りするように命令させるよ。だから、今度は気を失っちゃだめだよ?」


「......................................................」


早口にまくし立てることで威圧して自分の意見を通そうとする彩咲の常套話術だ。ってことはわかってるんだけど、それでもなおしっかり威圧されてしまうのはもう仕方ない。


それにしても、こんな監禁状態に陥ってしまってはいるけど、皮肉にも俺たちの作戦、真霜さんの命を保証させるシナリオはある程度は機能しているらしい。


ただ、彩咲がいきなり手錠を外して襲ってくるなんてところまでは計算してなかった。


完全に俺の落ち度だ。

あの彩咲のことなんだから、俺はそれくらい予想できたはずだったのに。


なのに、ある程度対等に交渉できるかもなんて油断してしまった。


浮かれすぎてたんだ。

......ほんとにごめん、真霜さん。俺のせいで......。



俺が後悔と絶望感に苛まれて俯いて口をつぐんでいると、彩咲の機嫌がさらに悪くなる。

そうして重々しく口を開いて威圧を続ける。


「............今は彩咲がお話してるんだよ? どうして彩咲の目を見つめていないの? どうしてさっきからチラチラあの女を見てるの?」

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