第43話 北風系ヤンデレと対話

「......う......ん? いったぁ............」


目を覚ました瞬間、いきなり首元に痛みが走って、一気に意識が覚醒する。



うっ......さむい......。

あと、身体が少し痛い。


「こ、ここは......? っていうか彩咲ささの服は!? ......手錠!?」


辺りを見渡すと、見たことのない貧乏くさいお風呂場。

狭くて古い安物の建物に備え付けのお風呂って感じ。


ペットになるなぁくんのために用意したお部屋のお風呂よりもしょぼい......。

......ってそうだ、なぁくん! 見つけたのは夢じゃないよね!?


思い出してきた。

なぁくんを見つけたと思ったら、なんか変な女が彼女ヅラしてたんだ......。

確か、なぁくんの子種を受けたとか言いやがってなかった......?


なぁくんも否定しなかったし......。

くそっ。思い出しただけでムカムカする。


彩咲だけのものだったはずなのに。

ちょっと彩咲のもとからお出かけ・・・・してる間に、あんな女に洗脳されちゃって、あまつさえ貞操まで奪われるなんて、とっても愚かで可哀想ななぁくん。


必ず目を覚まさせて、取り返してあげるからね。


..................でも、なんで彩咲、下着しか着けてないの......?

なんで手錠掛けられて、浴槽の中に転がされてるの?



「あ、やっと目を覚ましたのね。........................はぁ......。一生眠っててくれればよかったのに」


「はぁ? って、あんた!?」


気を失うまでの記憶を辿ってウンウン唸っていたら、部屋のドアが開いて、彩咲から大事ななぁくんを奪った憎い女が入ってきた。



「私としては、本当は海にでも沈めてやりたいんだけど、ナナくんがダメって言うから我慢してあげてるんだよ」


「......彩咲の前でなぁくんの名前を呼ぶな」


ムカつく。

まるでなぁくんが自分のものであるかのように呼びやがって。



「ふっ、そんな格好になっても口が減らないんだね。さすがはナナくんをあんなに傷つけた悪女だけはあるね」


「うるさい。それよりなぁくんを出して。この家の中にいるんでしょ。それくらい匂いでわかるから」


「..................ほんとありえない............」



余計な御託はいいから、なぁくんを出せ。

こんな女といつまでも喋ってたら腐ってしまう。


ドアが開かれたときに香ってきたなぁくんの匂いですぐわかった。

彼はこの家の中にいるんでしょ。


「っていうか裸でお風呂場に放置するとか何考えてるの。常識ないんじゃない?」


「いやいや、いきなりナイフで刺そうとしてきた女にだけは、常識を説かれたくはないから。それに、織女おりめさんのその汚い身体なんかを、私の大事なナナくんに見せるわけにはいかないじゃない? ナナくんがこれからの人生で見ていい女の子の裸は、私の身体だけだからね」


ニヤッとイヤらしく口角を上げて、彩咲を挑発するような視線と言葉を送ってくる。

くそっくそっ!!! なぁくんはホントにこんな女の身体を見たんだ。触って、揉んで、挿れたんだ......。


「......アバズレ......」


「それはあなたの自己紹介?」


「......チッ。それで、なんで彩咲をこんな格好で拘束してるの? なに、裸の女を縛り上げて眺めるのが趣味なの? やっぱりなぁくんには相応しくないみたいね」


「本当に口が減らないね。あなたの服を取ったのは、ナナくんに言われて、そのままだと発信機とかがついてて、あなたの家の人間に場所を感知されるかもしれないからって、捨ててあげたの。私はその下着も燃やしてあげたかったんだけど、汚いものがナナくんの目に入っちゃったら困るからね。何もないことをチェックだけして、残してあげたんだよ」



この最低女。


けど、さすがはなぁくん。

......確かに彩咲の服には発信機がいくつかついてたから、その判断はある意味合ってるけど......。



けど、まぁ、この女は彩咲の生命を奪ったりするつもりはなさそう。

だから、ちょっと強気に出ても大丈夫だろう。



「......はぁ。まぁいいわ、アバズレ。彩咲を縛ってるコレを解きなさい。それで、なぁくんと会わせて」


「..................あなた......。なんていうか、逆に凄いわね......」


「アバズレに褒められても嬉しくないから」



なぁくん以外の言葉なんてゴミほどの価値もない。


「そのアバズレっての辞めて。あなたに名乗る名前なんて無いけど、いつまでもそう呼び続けられるのも嫌だから、苗字だけ教えてあげる」


「いらない」


なんでこんな敵の名前を聞かないといけないの。



「私は星迎ほしむかえよ。星迎様って呼びなさい」


「知らないよ。どうでも......い............い?」



待って、星迎......?

どっかで聞いたことある気が......。


星迎。ほしむかえ。星むかえ............ホシムカエ?



あ......まさか..................。



「あんた、まさか桃郷真霜もものさとましも......?」


「えっ......?」


この反応。正解、か。

表情が変わらないように努めてるみたいだけど、彩咲の目はごまかせないよ。


凄く動揺してるね。


だとしたら......。


「お前が桃郷真霜なのね。あぁ、今は星迎真霜ほしむかえましもだったかな? なぁくんが昔いた施設に居た女、でしょ? 彩咲たちの2つ上で、なぁくんに懸想してたくせに何もできないまま、なぁくんを人質にされて、星迎の家に入っていった無様な女」


「......どうして知ってるの?」



やっぱりね。

愛する男を自分の手で守ることもできないまま引き離されたダサい女。


......だと思ってたんだけど。


「負け犬女の分際で、未練がましくなぁくんに迫って、我慢できずに洗脳までして、大事ななぁくんの童貞を食べたんだ。本当に許せない」


「......確かに私は一度ナナくんと引き裂かれた負け犬だったし、二度と会えないと思ってた。でも、織女彩咲おりめささ。あなたがナナくんに酷いことしてくれたおかげで、本当に偶然ナナくんがここに来てくれて再会できたんだよね。そういう意味ではほんのちょっとだけ感謝しなくもないよ。洗脳なんてしてるはずないでしょ。ナナくんが純粋に心から私を好きになってくれて、求めてくれたの」



何を言ってるんだこの女。

頭がおかしいんじゃないか?


っていうかそれ以上しゃべらないで。

脳みそが腐っちゃうじゃん。



「ほんと、その姿でよく威勢よくいられるよね。感心しちゃうよ。新しい負け犬女さん♪」


「..................まだ負けてない。なぁくんは必ず返してもらうよ」


「無理よ。ナナくんはもう、私以外の女の子と触れ合うことはできないの。あなたのせいでね」



は?

可哀想に、やっぱり頭がおかしくなってるんだね。


速くなぁくんの傍から引き離さないと。

けど。


「......どういう意味?」


「そのままの意味よ。ここに来たばかりのとき、っていうかついこの間まで、あなたがしたひどい仕打ちのせいで、ナナくんは女性恐怖症になってたのよ。私が触れた途端、パニックになるくらいね」


「......そんなの、お前があまりにも気持ち悪かったからなんじゃないの」



彩咲の挑発に、ピクリと眉を動かしてたけど、表情は相変わらず変わらないようにしてるみたい。


「............。元凶のあなたなんて、一生触れてもらえないでしょうね」



彩咲の言葉を無視して、また挑発してくる星迎真霜。

腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ。


自分がなぁくんに抱いてもらったからって、調子に乗るな。



「......................................................嘘つくな。なぁくんは今すぐにでも彩咲に赤ちゃん孕ませたいって思ってるに決まってる」


「あらあら。現実を受け止められなくて、頭が狂っちゃってるのね。可哀相に」


「............頭が狂ってるのはお前だろ、星迎真霜」



なんて言い返してみたものの、多分コイツの言ってることは本当だと思う。


なぁくんはおクスリ漬けのペットになるんだから、発狂したって関係ない。

生物の本能に抗えずに彩咲の身体を求めるようになるんだ。


..............................でも、やっぱり好きになって抱いてもらいたい気持ちはまだ残ってる。


彩咲が触れて、なぁくんが発狂したら、さすがにショックを受けちゃう。


こうやって心を折るのがコイツの狙い......?


「星迎真霜。あんた、彩咲にそんな話して、彩咲の心を折るのが目的なわけ......?」


彩咲の質問に、いよいよさっきまで固定するようにしてた表情を崩して、彩咲を見下して、驚くべき提案をしてきた。












「織女彩咲。あなたの持つお金を使って私とナナくんの未来の幸せを約束してくれるなら、ちょっとくらいなら、ナナくんからの寵愛を分けてもらえるようにサポートするくらいなら、考えてあげるけど?」


「はぁ?」

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