第41話 北風系ヤンデレと再会1

「もぅ、もーっ! 昨日のナナくんってば......ほんと酷かったよ......」


「あ、あはは、ごめんね。真霜ましもさん・・があんまりにも可愛い反応してくれるから、全然理性が効きませんでした......」



僕が目を覚ましたときには、真霜さんの頭が僕の右腕に載せられてて、これまた可愛かった。

それから1時間くらい寝息を立てて気持ちよさそうに眠る真霜さんの寝顔を堪能したころ、彼女がむにゃむにゃと目を覚ましてきた。


真霜さんが目を覚ましてからもう30分くらい経ってるけど、僕ら2人とも、まだベッドの上から移動していないまま、やり取りを続けてる。



およそ2週間ぶりの再会から、そのままの流れで熱く強く結ばれた夜が明けて、もう日は高く登っている。


真霜さんは自分の腰を痛そうにさすりながら、僕の肩を軽い力でトスントスンってパンチしてくる。

僕ら2人とも、服を着てないから、真霜さんの柔らかい手の感触がダイレクトに伝わってきて心地いい。



パンチされている理由は簡単。

昨晩、真霜さんが涙を流しても、気を失っても止めることなく、僕の欲望の赴くままにヤラせてもらったから。

それが、どうやらちょっとばかしやり過ぎてしまったということ。


最初はかなり慎重に進めたし、慣れてきてからも激しくしすぎたりはしないように注意はした。


破瓜の痛みは、普通に怪我するのと同じ現象なんだから、きっとかなり痛いはずだし、そんなすぐに痛みが引くわけ無いだろうしね。

自分で体験することはできないからわからないけども。


一応、凄く満足してくれたみたいだけど、それでも筋肉痛と破瓜の違和感で未だにベッドから立ち上がることもできないんだとか。


可愛い。僕の真霜さんは筋肉痛でも可愛い!

彼女のことを僕が奪った、って思うと、それだけで真霜さんの可愛さが何倍にも増して見える気がする。




ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜。



「うぅ......。なっちゃった......」


ベッドから部屋中に爆音を響かせる真霜さんのおなかの虫。

いや、可愛すぎだから。


「あっはは! そうだよね、昨日、すっごい運動したし、お腹減ったよね」


「......うん」



素直に頷いてくれる真霜さんの頭を軽く撫でる。

おでことかうなじが若干ベタベタしてて、昨晩かいた汗の残滓が読み取れる。


......あんまり長くこうしてると、また昂ってしまうな。


「じゃあ、シャワー浴びて、ご飯買ってくるね。真霜さんはゆっくり寝てて」



確か、昨日帰ってきてから見てみたときには、冷蔵庫の中にはもう何もなかった。

何かスーパーまで買いに行かないといけない。


疲れ切ってる彼女を動かさせるのは可哀想だと思っての提案だった。けど......。



「え、ナナくん1人で行くの!? 私と一緒にいたくないの!?」


「い、いやいや、そういうことじゃなくって! 真霜さんしんどいんじゃないかと思ってさ」


「むふー、お気遣いありがとっ。でも、今は一瞬でもナナくんの傍に長く居たいな♪」



輝くような笑顔でそんなこと言われたら、即堕ちですよ。


「わかりました。じゃあ、お風呂入って、一緒に行こっか!」


「うん!」





結論から言えば、真霜さんについてきてもらうことになって、本当に良かった。

僕一人ででかけていたら、二度と真霜さんに会えなかったかもしれない。



*****



「なぁくん、ミツケタ」


びくっ。

ひっ......。



2人で手をつないで食材を買いにスーパーまで歩く幸せな時間の最中。


幸福度の急転直下。


悪夢が再び目の前に訪れた。

完全に逃げ切れたものだと思い込んでしまっていて、見つかるなんて可能性を無意識のうちに意識から外してしまっていたんだ。


彼女・・がそんなに諦めが良いわけがなかったのに......。

過去に比べて過度に幸せすぎる日々のせいで、危機意識が薄くなっていたんだと思う。


そんな後悔も、今となっては無意味。



「あっ............。え......っと......、うぇ............。そ......の......」


僕らの目の前にいるのは、たった数ヶ月前に僕が逃げ出した相手。


声が聞こえただけでわかる。

間違えるはずもない。


織女彩咲おりめささその人である。


僕の光を失っている左目側から、一歩一歩地面を踏みしめてじっくりと視界に侵入するように、威圧するようにゆっくりと接近してくる。


薄く視界の端に存在を確認できるだけなのに、何故かその姿がはっきり分かるように感じる。


真っ暗な瞳に、いびつに口角が上がった口元。

地の底から響くような声音、何もないはずなのに背後に見える溢れるような黒いオーラ。


その表情、その声、その雰囲気。どれもがあまりにも恐くて、言葉がうまく紡げない。



はっ、はっ、はっ、はっ............。


自然と呼吸が荒くなる。

最近とんとなかったフラッシュバックが脳裏に再生されて、精神が安定しない。


............真霜さんは......手をつないだまま、心配そうに僕の顔を覗き込んだり、彩咲の方を訝しげに見てる。

やばい......逃げて......真霜さん。



「本当に。本当に本当に本当に本当に本当にほんとぉ〜〜〜〜〜に、たくさん探したんだよ。なぁくん成分が足りなくて、危うく狂っちゃうところだったよ。

いや、今も狂いそうだけどね? 目の前の光景が信じられないんだよね、どういうことなんだろうね、なぁくん?」



キミは昔から狂ってるよ、なんて言葉を出せるはずもなく、ガタガタと細かいビートを刻む身体の震えを止めることができない。


隣に真霜さんがいてくれなかったら、手を繋いでいてくれていなかったら漏らしてしまっていたと思う。

逃げて欲しい気持ちと、離れないで居て欲しい情けない気持ちが同居してる。


彩咲は、真霜さんを一瞥したかと思ったら、すぐに無視するように視線を移して、うろたえる僕をその昏い双眸に映す。

そうして、ゆっくりと悪魔のような彼女がにじり近寄ってくる。



「ねぇ、なぁくん。いいえ、夏凪晴ななはぁ? どういうこと? その女は何? 急に彩咲の元からいなくなったと思ったら、なに、浮気するためだったの? だめでしょ、夏凪晴の全部は彩咲のものなんだよ? あれだけ言うこと聞くように教えてあげたのにまだわかってなかったなんて、彩咲は悲しいよ。ほら、こっちに戻っておいで?」

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