第39話 太陽系ヤンデレと再会
「あ、真霜さん。おかえりなさい」
「ナ、ナナ、くん......? 本当にナナくんなの? 本物? 幻覚じゃない!?」
「あはは、何いってるの真霜さん。もちろん本物ですよっ」
いつも着ていたグレーのトレーナーを着て出迎えてくれた彼。
あぁ......。その優しい微笑みも、声も、匂いも。
何もかもがナナくんだ。
「あ......あぁ......。ナナくん............ナナくんだぁ!」
勝手に目から涙が溢れ出て止められない。
駆け寄って今すぐ抱きしめたい。
けど、そんなことをしたら彼の身体が拒否反応を起こしちゃう......。
涙を拭くことも忘れてバッと抱きつこうとしたけど、なんとか理性で途中で止めて、しなしなと萎れる私。
「多分だけど、大丈夫だと思う。おいで、真霜さん」
穏やかな笑顔で手を広げて私を待つナナくん。
溢れ出ている色気と、2週間も会えなかった寂しさ。
それらが「許された」のだから飛びつかないわけがない!
でもいきなり押し倒したりしちゃって、万が一にもナナくんにフラッシュバックが起こっちゃって後々距離を取られたら嫌だから、慎重に......。
私は恐る恐る玄関に入っていって、ドアを閉めて、そうしてナナくんの胸に顔を埋めて背中に手を回す。
私の身長が155cmで、ナナくんはだいたい170cm後半くらいだから、2人が直立した姿勢のままでナナくんの胸元が頭を預けられるちょうどいい場所にある。
ギュッ。
急にたがを外して怖がられたりしないように、背中に回した腕に軽く力を入れる。
それからナナくんが私を抱きしめ返すように、私の腕の外側から背中に手を回して、柔らかく締め付けられる。
......拒否されない。それに温かい。
本物のナナくんだ。
よかった......。
「ぐすっ。おかえりなさい......」
ナナくんの服で涙を拭うみたいになっちゃってるけど、許してくれるよね?
「うん、ごめんね。ただいま」
彼の優しい声が耳朶を打つ。
それだけで、胸の中に温かい何かが溢れてくるような錯覚を覚える。
それにさっきからあまりの感動に手が小さく震えてしまってる。
けどそれもそのままに、ナナくんの身体に顔を押し付けて......直接に目一杯匂いをかぐ。
すぅぅぅぅぅ。
ふにゃぁ〜。
........................幸せ過ぎる..............................。
ここは天国なのかな。
背骨のあたりから「幸せ」を詰め込んだ刺激みたいなのが、ぞわぞわと全身に巡って、身体が勝手にぶるっと短くシバリングする。
もしかして私、いつの間にか死んでた?
借金がなくなったっていうのも夢かな?
でもこれだけ幸せを感じられるならそれでも構わないかも......。
ぽすっ。なで。なで。
ナナくんの匂いと感触を堪能して昇天中の私の頭に、優しくも確かな重みが加えられて、ゆっくりと髪に沿って動かされた。
頭を撫でられてるんだ。
突然だったから、身体がビクッと跳ねてしまって恥ずかしい。
そうしてそのまま30秒くらい無言で撫でられる時間が続いた頃、ナナくんが私の髪を耳にかけるように、なぞるような撫で方に変えた。
その瞬間..................ビクビクっと私の全身が痙攣した。
ナナくんに巻きつけてる腕にも一層の力が入る。
..................あまりの多幸感に、絶頂を迎えてしまったみたい。
匂いをかぎながら撫でられただけで......。
どれだけ溜まっていたんだろうか。恥ずかし過ぎるよ......。
ナナくんに気づかれてないといいな......。
「えっ!? 真霜さん大丈夫!? ごめん、なんか変なことしちゃった!? 体調悪い!?」
ダメだった。
私の異質な反応にさすがに気づいたみたい。
でも絶頂したってことはわかってないのか、凄く心配させてしまってる。
「だ、大丈夫! なんでもないよ! そのぉ......くすぐったかっただけだから!」
「ほ、ほんとに? しんどいなら正直に言ってよ? あ、っていうかいつまでも玄関で居たらそりゃ寒いし、しんどいか。ごめんね、気がつかなくて!」
確かに今は12月も真ん中で外は寒いけど......。
私の心臓は高鳴りっぱなしで、体温も上がってる気がして、寒いのとか気にならない。
そんなことはいいから、もっと長く強く抱きしめてほしい。
そんな私の想いとは裏腹に、ナナくんは私の背に回していた手を解いて、部屋の中に入るよう促す。
「あっ......」
私自身無意識に声がでてしまった。
もっとぎゅってしててほしい......。
私のそんな願いに勘づいてくれたのか、ナナくんは「ふふっ」って小さく笑う。
「僕ももっとぎゅってしたいからさ。とりあえず部屋に入ろう? 今日も明日も休みだよね? 時間はあるんだし、中でゆっくりしようよ」
「う、うん。そうだね......」
ナナくんがあまりにも大人なエスコートをしてくれるものだから、なんだか圧倒されてしまう。
これまでは過度な接触を避けてきたからここまでじゃなかったけど、もしかしたらナナくんの性格は本来こんな感じなのかな?
「あっ」
ナナくんが家に帰ってきてくれてたことにびっくりしすぎてなし崩し的に抱きしめ合っちゃったけど、彼にはいろいろ確認しないといけないことがあったんだった!
「ん? どうしたの?」
「ほら、ナナくんっ。速く速く! いろいろ聞きたいことがあるんだから!」
私はナナくんの手を引いて、2人のリビングに移動した。
......の前にナナくんに注意されて手洗いを済ませてから移動した。
彼いわく、「真霜さんが風邪とか引いたら嫌だからね」ということらしい。
好きっ!
*****
ずずっ。
「ふぅ。美味し♫」
「はは、それはよかった」
リビングに移動してから、ナナくんが淹れてくれたお茶を飲んで一息つく。
私がやるって言ったのに、「黙って長く家を空けたから、そのお詫びの一貫だよ。お願い」って逆にお願いされて、譲ってもらえなかった。
もう私はナナくんが発するどんな言葉でもキュンキュンしてしまうチョロ女になってしまったらしく、「う、うん」ってなんともボンヤリした返事しか返せなかったんだけど。
そんなわけで2人リビングのソファに隣合って、お茶をすするだけの静かな時間が流れる。
ナナくんは今なら私からのどんな接触でも受け入れてくれるみたいなので、お言葉に甘えて彼の肩に頭を預けてまったりする。
その間私は、いろいろ聞きたいことがあるけど、どこから聞こうかぼんやり考えながら、ゆっくり流れる幸せな時間に浸っていた。
ややあって、カップのお茶を飲みきった私から話し始める。
やっぱりまずはここからだよね。
「えっと、それで、ナナくん......?」
「うん」
「その、私の借金............。返してくれたのは、ナナくん、だよね?」
今日もうちの借金の返済に事務所に出向いたら、まだ1500万くらい残っていたはずの借金がすでに完済されていた。
頭取の鬼門さんが漏らしてた言葉からして、というか返してくれる人の目処なんて、ナナくんくらいしか居ない。
ほとんど確信してるけど、ちゃんと彼から聞かないと。
「あー、うん......。まぁ、そうだね」
ナナくんはちょっと気まずそうに頬をかいて照れるように目を逸らす。
「やっぱりそうなんだね。............まずは、えっと、ありがとうございます」
すぐにでも理由とか方法を聞きたいけど、それよりなによりまずは彼の行動に感謝しかない。
私はソファを下りて、三つ指をついてお礼をする。
その私の行動に、ナナくんはすぐにソファから立ち上がって、私を制する。
「ちょっ......そんなんやめてよ! 僕がしたかったことを勝手にしただけなんだし......。むしろ僕が勝手に動いて混乱させちゃってごめん」
「ナナくんこそ謝るなんてしないでよ! ............ほんとにありがとね。おかげで私......」
大事なものを失わずに済んだ。
安心して私の今も未来も、ナナくんにあげられるようになったよ!
「うん。ほんとに僕のわがままなんだけどね。ちょっとでも真霜さんの力になれたんだったら、よかったよ」
そう言ってにっこり微笑むナナくんの表情は柔らかくて優しさに溢れてる。
胸が痛いほど高鳴る。
......けど、それはもうちょっと抑えて。
「えっと、それで、ナナくんはどうやってあれだけの額を返したの......? ちょっとやそっとで支払える額じゃなかったと思うんだけど......」
「あー。なんていうか............。怒らない?」
さっきまでの余裕そうな表情をしていたナナくんが、こころなしか気まずそうに目線を外す。
いたずらした子どもみたいな仕草。
もぉっ。
そんな表情されたら怒れないよ。
でも、怒られるようなことをしちゃったのかな......。
余計に気になっちゃう。
「わかった、怒らないから、教えてくれる?」
「うん。その............別にめちゃくちゃ特殊なことってわけじゃないんだけど......。これ......」
ナナくんは着ていたトレーナーを脱いで、その下に着ていたTシャツの裾をまくる。
「っ......!?」
ソレを見た私は絶句するしかなかった。
具体的なことを説明されたわけじゃないけど、見せられた傷を見れば大体理解できた。
ナナくんの腹部、というか脇腹の部分には、大きな縫い跡が斜めに残っていた。
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