第4章 北風系ヤンデレと太陽系ヤンデレ

第37話 太陽系ヤンデレと行方不明

「う、嘘......これ、どういうこと......?」






ナナくんとお付き合いできることになってから1ヶ月ちょっと。

それまで本当の意味で夢にまで見たナナくんとの幸せな生活。


ナナくんのパンツで1人でシてるところを見られちゃったり、ナナくんのお仕事先でナナくんを誑かそうとする悪い女の子たちにちょっとしたご挨拶・・・をさせてもらったりと、波風の前兆こそいくつかあったものの、実際の嵐が到来することは今の所ない。

私の方も、織女彩咲おりめさささんのしでかしたことを聞いていたので、ナナくんへの過度な愛を爆発させることはなく、彼も私に少しずつ心を開いてくれているみたいだった。


身体こそまだ重ねられてないけど、もしかしたら20歳になるまでに......。

そしたら私のハジメテはナナくんにあげられるかもしれない。


そう思ってたところに、コレ。

目の前の状況に理解が追いつかない。



仕事を終えて、今日もナナくんと一緒に彼の作った美味しいご飯を食べて幸せな気持ちになることを想像して意気揚々と帰宅した私の目に飛び込んできたのは、電気が消えて真っ暗な部屋。

ナナくんがいつも履いてる靴もない。


彼と再会してから、ナナくんが私よりも遅く帰ってきたことなんて一回もなかった。

長時間外にいると、織女さんに見つかっちゃう確率が高まるからって、できるだけ部屋に居てくれた。


だからこそ、私は嫉妬を爆発させなくて済んでたのに......。


だって私の仕事が終わるのって、いつも夜中なんだよ?

今日だって、もうすぐ深夜2時になろうって時間なのに......。


こんな時間に部屋に居ないなんておかしい。


家中探してもどこにもナナくんはいない。

残っていたのはテーブルの上の1通の手紙だけ。




恐る恐る手紙を手にとって目を通すと、そこに書かれた言葉に、全身の力が抜けてしまうような感覚に襲われる。



=====

真霜さんへ


いきなり僕が部屋からいなくなっていて驚いているかもしれません。

詳しくはまだ話せないんですけど、すごく大事な用事のために、2週間ほど部屋を出ます。


もし上手く行ったら真霜さんの20歳の誕生日までに帰ります。

万が一それまでに僕が帰らなかったら、僕のことは忘れてください。


でも、その日までは絶望したりしないで健康で待っていてくれると嬉しいです。


愛してます。


空鷲夏凪晴より

=====


帰ってくる、愛してるって書いてくれていることへの嬉しさが辛うじて正気を保たせてくれる。


2週間。

手紙にはそれだけの期間、ナナくんが私の元からいなくなるって書いている。


大事な用事ってなんだろう......。


今日は11月30日。

私の20歳の誕生日まであと17日しかない。


私が純潔を保ったままナナくんと過ごせる最後の2週間だったのに......。

そんな大事な時間よりも大事なこと。


なんだろう。

もしかして織女さん関係の何かだったり?


まさかその子と会ったりしてるの?


ナナくんだったらあり得る。


私とずっと一緒にいるために、過去と決別しよう、なんて、ナナくんが考えそうなことにも思える。

もしも万が一にもそんなくだらないこと・・・・・・・にこの大切な時間を捧げたりしてたとしたら、悲しすぎるよ。


私はナナくんと一緒に居られればそれだけでいいし、もしものときは私が織女さんとやらを始末してあげるんだから。

そんなことをしてる暇があったら私と愛を育む大切な時間を一緒に過ごしてほしかった。


............実際は何をするためにどこへ行っちゃったのかもわからないから、そんな風に悲観するのも良くないんだろうけど......。


っていうか、手紙には『万が一帰らなかったら忘れてください』なんて書いてた。

......帰ってこない可能性もあるの?


それに、忘れられるわけないよね?

私は何年もの間会えなくても、今後一生会えないかもしれないって状況でもナナくんのこと忘れられなかった執念深い女なんだよ?


こんなこと書いちゃうなんて、ナナくん、私の愛が伝わってなかったのかな?

織女彩咲との傷を開いちゃったりしないように優しくし過ぎちゃたのがダメだった?


湧き上がってくる衝動に身を任せてナナくんを縛り付けておけばよかった?

こんなことなら発信機だけでもつけておけば......っ!





............いやダメだよ星迎真霜。

私はナナくんをあったかく包み込むって決めたでしょ。


あいつみたいな見せかけの愛じゃなく、ナナくんの心からの愛をもらうんだ。


今、私にできるのは、帰ってきてくれるって言葉を信じてがんばることだけ。


できることなら借金を完済して、晴れ晴れとした気持ちでナナくんの帰りを待ちたいけど......。

あと2週間で1500万円なんてお金、どうやっても工面できそうもない。


今すぐ身体を売り始めたってそんな大金手に入らないし。

性的な「売り」じゃなくて、物理的に身体の一部を売却する、なんて手もあるかもしれないけど、それだとナナくんのお手紙にあった、「健康で待ってて」って約束を破ることになってしまう......。


だから、私にできることは、いつも通りお仕事を頑張ることだけみたい。





その晩、ナナくんの匂いが染み付いたお布団にくるまって、彼の匂いのする枕を涙で濡らして眠った。


他の液体で濡らしちゃうことも考えたけど、これから2週間もの間、1人で堪えなくちゃいけないのに、そんなことしたら数少ないナナくん成分を失ってしまうことになる。

それだけは避けようと、なんとかかんとか我慢して眠りについた。

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