第36話 太陽系ヤンデレと幸せな日常2

彼女と付き合いだしてからすでに1ヶ月ちょっとが経過した。


真霜さんと再会してたった2日でお付き合いを開始するっていう電撃っぷりを見せた僕らだったけど、彼女との生活はとてつもなく充実していた。


付き合い出す時に彼女は自分のことを『彩咲よりも凄い束縛をしてしまうかもしれない』なんて嘯いてたけど、やっぱりそれは単なる誇大表現だったようで、毎日毎日真心込めて尽くしてくれるし、僕のプライベートも最大限尊重してくれている。


家のことは基本僕がやらせてもらっている。


彩咲のもとから逃げてきたときに引っ掴んできた100万円も、彩咲のもとから逃げ出して1ヶ月半が経った今となっては50万円くらいしか残っていない。

その殆どは脱走のための自転車だとか、宿泊費とかに使った分で、あとは生活費として真霜さんに渡している。



それに加えて、僕は半月前くらいから仕事を始めた。

高校さえも中退させられている僕を雇ってくれるところがあるのか不安でしかなかったけど、僕の別件の相談に乗ってくれた人が斡旋してくださって、おかげで正社員候補として仕事をもらっている。


職務内容は............なんと言えばいいだろう。

いわばいろんな雑用をこなす、万事屋みたいなこと、かな?


相談した神社を中心に、この街はいろいろと外の世界じゃ考えられないことが起きてるらしい。

僕の仕事は、街の中で起こったゴタゴタを、表も裏もどちらのイザコザも内々に処理する、そういう仕事。


口止め料代わりってのもあるんだろうな。それなりの給料をもらえている。

といっても、真霜さんの借金返済につながるほどってわけじゃないんだけどね。



そんなこんなで、この1ヶ月、公私ともに結構いろんなことがあった。


例えば、先日すごくびっくりした出来事があった。


寝る場所は、真霜さんがベッドで、僕が床に布団を敷いて寝させてもらっている。

再会したばかりのときは気づいたら一緒に寝てたってときがあったし、今も一緒でも横に並んで寝ただけだったらパニックになったりはしないと思うんだけど、万が一に備えて布団は分けてもらっていた。


それに、一応、真霜さんと一緒に2人の初夜に向けていろいろと特訓はしてて、そっちの成果もちょっとずつ出てる気がする。

だから、今なら一緒に寝ても良いかもしれないんだけどね。


ともかくこれまでは布団は別々にしてるんだけど、この間、僕が夜中に尿意を催して目を覚ますと、真霜さんがベッドにいなかった。

小腹でも減ったのかなと思ってお手洗いの方に向かうと、洗面所の方から小さな声が聞こえたんだ。


幽霊とか信じてない僕だったけど、真夜中だったし、真っ暗な中から声が聞こえてきたからさすがにちょっと怖かった。

でも泥棒とかだったらヤバいし、真霜さんが襲われてたら大変だから、ソロリソロリと洗面所に近づいて、チラッと顔を覗かせて見てみると......。





真霜さんが明日洗濯しようと思っていた僕のパンツらしきものを顔に押し当てて、彼女の秘部を必死に撫で回していた。

彼女は「ナナくん、ナナくん」と僕の名前を呼びながら、小さな喘ぎ声を押し殺しつつ、自らを慰めていた。


僕はびっくりしすぎて数分間は見つめたまま動けなくて、彼女が果てる姿を見て我に返るまで一言も発することができなかった。

見てはいけないものを見てしまった僕は、『何も見なかったことにしよう』と思って、音を立てないようにその場を離れようとしたんだけど......。


ギシッ。


不覚にも床がきしんだ音を鳴らしてしまう。


「............ナナくん、そこにいるの?」


ビクッ。


「......大人しくでてきてくれたら怒らないよ?」


怒られない?

なら、いいか?


「あ、えっと............こんばんは......?」


「......っ。やっぱり......。どこから見てたの?」


「えー、そのー」


「正直に言ってほしいなぁ」


「どこって言われてもわからないんだけど、なんていうか、僕のパンツ顔に押し当ててなんかシてるところから、かな?」


暗順応で暗闇にも目が慣れてきて、ぼんやりと周囲の様子はわかるけど、お互いの表情までは詳しくはわからない。

けど、うつむいてる姿を見て、いや、そんなの見なくてもわかるんだけど、相当恥ずかしがってるらしい。


「......絶対お嫁さんにもらってよね」


「え、あ、う、うん?」


「こんな破廉恥な姿見られちゃったら、もうお嫁に行けない!だからナナくんがもらってよね!」



今まであんまり声を荒げることのなかった真霜さんが、珍しく荒ぶった声で僕に詰め寄ってきた。


「へ、変なところ覗いちゃってごめん。でも、心配しなくても、真霜さんさえ良ければ、ぜひお嫁さんにもらいたいって思ってるから」


「そ、それならいいんだけど......。って、ナナくん、それ......」


「あー、これは、そのー。あんなの見せられたら生理的にそうなるっていうか」



真霜さんは暗闇の中でも見えているのか、僕の股間に視線を向けてつぶやく。

あんなあられもない姿を見せられて正常なままでいられるわけもなく、テントを張ってしまっていた。



ここ1ヶ月、真霜さんは僕のパニック体質を慮って、いろいろと配慮した生活を送ってくれている。


過度な接触も避けてくれたし、作るご飯も全部美味しい美味しいと手放しで褒めてくれたり、週末は一緒にでかけたり部屋でゆっくりしたり、彩咲といた頃には想像もできなかった穏やかな生活。

同時に、肉体的にも結ばれることができるよう、ちょっとずつ触れたりする練習をして、少しずつ改善してきてる。


最初はフラッシュバックがすごかったけど、最近はかなり症状がマシになってきてる。


そんな中だから、彼女のあられもない姿に、普通の男と同じように興奮してしまうのも仕方ない、よね?



「もしかして、デキたり、する?」


真霜さんの声は暗い部屋でもわかるような明るさを孕んでいる。


前々から望んでいたコトができるかもしれないって状況に、期待した表情になっているんだろうことが容易に想像できて、そんな可愛らしい姿にくすっときた。

んだけど......。


「あー、それは流石に、無理だと思う......」


「そっかぁ......」


「うん、ごめん」



感覚的に身体を重ねるのはまだ無理そうだ。

僕の否定の言葉にあからさまに残念そうに落胆する真霜さんの姿に、罪悪感が浮かぶ。


「って、いや、それは確かに申し訳ないんだけど、そうやって誤魔化そうとしてない!? さっき僕のパンツ勝手に使ってたよね!?」


「えっ、あー、それはぁ。......もうよくない?」


定期的に見せてくれる『テヘペロ』を披露してみせる真霜さんに、なんかもうどうでも良くなった。



「まぁいいけど。欲求不満にさせてる僕のせいでもあるだろうし。ほどほどにしてね」


「うん、ほどほどにする......」


まぁ彩咲みたいに無理矢理なんかしてくるってわけでもないし、僕に害があるわけでもなし、ということで水に流した。



なんてことがあった。

とはいえ、プライベートは至って順調で、真霜さんからの愛を感じさせてもらえてるので、僕からも精一杯気持ちを返すようにしている。


仕事の方も順調だ。


職場である程度仲良く話せるようになったと思った女性が、なぜか急によそよそしくなるってことが何回かあったけど、もしかしたら僕に粗相があったのかもしれない。

あるいは、僕が無意識のうちに女性に対して恐怖感情を抱いていて、それが振る舞いにもにじみ出てしまっていたのかもしれないしね。


でも男性社員の皆さんとは仲良くやらせてもらってるし、女性社員も仕事の上で困ることはない程度には普通に話してくださるので、特に問題はない。




だけど今はすでに11月も末だ。

真霜さんの誕生日まであと半月程しか無い。


僕と真霜さんの給料をあわせても、残りの1500万を返済できそうな目処はたちそうもない。




これはいよいよ......と思っていた矢先、以前相談していた組織から、会社経由で僕のもとに連絡が来た。

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