第34話 太陽系ヤンデレと幸せな日常1
「ただいまぁ!」
「あ、おかえりー」
真霜さんが元気よく帰宅を知らせてくれる。
僕も温かい気持ちを受けながら彼女を迎えた。
「わ〜! ちゃんとナナくんが部屋にいてくれてるー! 夢じゃなかったー!」
「あ、あはは、お仕事お疲れさま......」
玄関で顔を見合わせた途端、真霜さんが急に叫びだしたもんだから、びっくりした。
「ふふっ、ありがと。びっくりさせちゃってごめんなさぁい。嬉しくってついね〜」
驚いた僕の表情を見て、「テヘペロ」とばかりに舌を出して誤魔化す真霜さん。
「ホントは抱きつきたいんだけど、ナナくんの体質だとね......」
この間、真霜さんに抱きつかれたときに僕がパニックに陥ったのを覚えてくれていたみたいで、相変わらず過度な接触は避けてくれているらしい。
比べるのは2人ともに失礼かもだけど、これが彩咲なら僕が発狂しようがどうなろうが、お構い無しでベタベタしてくること請け合いだ。
というかむしろ、僕が発狂したら逆に喜んで調教するまであるかもしれない。
両手の人差し指の指先をちょんちょんと突き合わせていじけたふりをしてみせる真霜さんはやっぱり可愛らしい。
「今日もあざとさは絶好調みたいだね」
「そんなにあざといかなぁ?」
彼女は自分の顎に手をおいて「むむむ」と考え込むような姿を見せる。
そんな姿もまた、あざとい。
本気でわざとやってるとしかおもえないけど、彼女はまじで素でやってるみたいだ。
似合ってるからほんとすごい。
「はははっ、別に、かわいいから直したりしないでいいとは思うんだけどね。他の人と話すときにもそんな感じなの?」
「ん〜、ナナくんとお話するときだけだと思うけどなぁ。そもそも私はナナくんと離れ離れになってから、普段はほとんど話さなかったし、お父様とお母様の方針で清楚な感じを繕うようにしてたから......」
真霜さんはそう言って、少し暗い表情で俯いてしまう。
余計なことを思い出させてしまったらしい......。
「あっ、ごめん。嫌なこと思い出させちゃったね......。これからは『あざとい』とかも言わないようにするよ」
「......ふふっ、全然だよ。逆に気を遣わせちゃってごめんね?」
真霜さんは柔らかく微笑んで、僕の頭をポンポンと撫でた。
昨日までの段階で、これくらいの接触ならパニックになったりしないことがわかってるからこその振る舞い。
「もー、僕は子どもじゃないよ?」
「えー? そりゃあ大きくて男らしくなってるけどぉ、まだ18歳でしょ? まだまだお姉さんに甘えてもいい歳だと思うんだよね!」
「じゅ、十分甘えさせてもらってるから」
「頭なでられるの、キライ?」
そんなうるうるした目で見られたら『キライ』だなんて言えないに決まってるでしょ。
「......別に、嫌いじゃない、けど」
「やった♫」
両手で小さくガッツポーズを作ってみせる。
まぁ、よろこんでもらえるならいいか。
......正直気持ちいいし............。
「ふふふ、じゃあいつまでも玄関で立ち話もなんだし、そろそろ部屋入ろっか♫」
「だね」
*****
「な、なにこれ!?」
洗面所で手洗いを終えた真霜さんは、居間のテーブルに並べた料理を見て目を丸くした。
「えっと、勝手にキッチン借りちゃって申し訳ないんだけど、今日は僕がご飯作ってみたんだ。口に合うかはわからないけど......」
そう、真霜さんが帰ってくる時間は聞いてたから、出掛けたついでに、近くのスーパーで食材を購入して、勝手ながら料理を作らせてもらっていたんだ。
「え、えー!? な、なんで!?」
「なんでって......。そりゃあ、居候させてもらうのに何もしなかったら僕最悪じゃん。だからせめて料理くらいできたらいいなって思ってさ」
「そんな......。こんなの、夢みたい......」
「えぇ!? こんなので泣かないで!?」
真霜さんの頬にはハラリハラリと涙が流れていた。
再会してから、もうすでに何回も泣かせちゃってるな......。
「無理だよ、こんなの。幸せすぎて勝手に涙でちゃうよ。ほんとに、夢じゃないんだよね?」
ただ料理しただけで、しかもピーマンとかタケノコなんかの野菜とひき肉を炒めた
冷奴に関しては料理と言って良いのかすら怪しい、パックから出してそのまま皿に載っけただけ。
僕自身、彩咲のおかげで一人暮らしした期間がちょっとだけあったから、その間はある程度自炊もしてたけど、もう何年も彩咲が用意した食べ物(?)だけ食べてた。
だからちゃんとした料理って久々だし、もともとそんなにレパートリーは無いんだけど......。
こんな簡単なのに、しかもまだ食べてすらいないのに、涙を流されて、しまいには「夢」じゃないかとまで疑われちゃうと、逆にこっちが恥ずかしいというか。
「夢じゃないよ。ってかホントに簡単なのしか作れないからさ。味見はしたけど、すごい普通だし。しょぼくても許してね」
「しょぼいわけないよ! ナナくんが作ってくれただけでそれはもう国宝級だよっ!」
涙を止めることもないまま、何やらおバカなことを叫ぶ真霜さん。
でも、そんなに言ってもらえると作った甲斐があるってもんだ。
「あはは、ありがと」
僕はお礼を言いながら、さっき真霜さんにしてもらったみたいに彼女の頭を軽く撫でる。
柔らかい髪の感触がこしょばくて気持ちいい。
「んむー。気持ちいぃ〜♫」
真霜さんは猫みたいに目を細めて気持ちよさそうにしてる。
幸せそうで、見てるこっちまで嬉しくなる。
しばらく撫で続けていると、真霜さんが「はっ」と表情を変えて話しだした。
「撫でられるの嬉しいし気持ちいいけど、甘やかすのはお姉さんの役割だよっ!」
ということらしい。
真霜さん的には『甘える』よりも、『甘えられる』方の役割を果たしたいらしい。
......って言われても、こんな愛らしい姿見せられたら、ついつい無意識に身体が動いちゃうってもんだよ。
「まぁ、なんていうか、ぼちぼちね?」
「むぅ............。ナナくん、反省する気、ないでしょぉ」
「そんなことないよ?」
反省しなきゃいけないところだったんだ? って思ったけど、冗談半分な感じだったから適当に返しておいた。
それよりも、僕もお腹減ったから......。
「ほら、冷めないうちにご飯食べよう? って言っても、作ってからちょっとだけ時間経っちゃったから、さっきレンジで温め直したんだけどさ」
「はーい!」
真霜さんはトテトテとデーブルに駆け寄って昨日と同じ場所に着席した。
彼女が座るのを見て、僕も昨日と同じように、テーブルのベッド側に腰掛けた。
「それじゃあ」
「うん」
「「いただきまーす!」」
味見したとはいえ、長年、彩咲に意味不明なものを食べさせられ続けた自分の舌に自信が持てるはずもない。
お金持ちに引き取られて、ある程度良いものを食べてきたであろう真霜さんの口に合うか、最低限食べられるものになってるかが不安で、箸をとって青椒肉絲風の料理を手にとる彼女を凝視してしまう。
「も、もぉ〜、見過ぎだよぉ............。いただきます。............あむっ」
照れながらも一口分を摘んで、口に入れる。
彼女の艶めかしい口元を凝視したせいで、ちょっと変な気分になったのは内緒。
目を閉じてモグモグと咀嚼する彼女をしばらく見守る。
......しばらくして、ゴクンっと喉を鳴らして嚥下すると、カッと目を見開いて、またしても目元を潤ませて呟いた。
「おいしぃ......」
「い、いやいや、流石に大げさすぎだから......。真霜さんはもっと良いものいっぱい食べてきたでしょ」
昨日から、彼女のあまりに過剰な反応を見続けてるとはいえ、こんな普通の料理の味(?)にそこまで感動されるとは思っても見なかったから、逆にこちらが恐縮してしまう。
でも真霜さん的には本当に嬉しいようで、ポロポロと号泣しながら箸を進めていた。
「ほんとに、ほんとうにおいひぃよぉ。ナナくん、ありがほぉねぇ......」
口に食べ物を入れたままであることと、泣きながらしゃべってるせいで、変な発音になってるけど、その言葉には心からの感謝を感じた。
「あはは、お粗末様。じゃあ、僕も。いただきます」
味付けが不安だったけど、真霜さんのお気に召したようで一安心したので、僕も心置きなく食べ始めた。
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