第28話 幼馴染と告白
「............もしかして、真霜さんが働いてるあの銭湯って......実は風俗店みたいな側面があったり......する?」
「よく、わかったね」
......やっぱり、そうなのか。
うわ、複雑......。
身体を売ってお金を稼ぐっていうのも、立派なことだとは思うんだけど......。
それでも本当の姉みたいに思ってた人が身体を売ってるっていうのは、なんとも言えないもやっとした気持ちにさせられる。
そんな複雑な気持ちが表情にでていたのか、真霜さんがハッとしたように目を見開いて補足をしてきた。
「あっ!? まさかナナくん、私があそこで身体を売ってるって思ってる!? 違うからね! 私はまだきれいな身体のままだから! 私の身体はナナくんの............じゃなかった。えーっと、ナナくんに誇れる純潔のままだよっ」
「えっ、あ、そうなの?」
あ、違うんだ?
真霜さんの言葉にホッとする自分と、それが事実なのかまだ疑わしい気持ちを抱えてる自分が共存している。
そんな感情も顔にでてたのかもしれない。
「あー、やっぱりそう思ってたんだー! ......でも、そう思うのもしょうがないよね......。あのね? 私、この12月で20歳になるじゃない? 実は契約の段階で、20歳になるまでは待ってくださいってお願いしてたの。そしたら、20歳までは、表の銭湯のお仕事と、裏の方の清掃をしながら勉強してなさいってことにしてもらえたんだ」
「な......っ」
それでも壮絶なことには変わりない。
真霜さんの話の通りだとすると、あと2ヶ月以内に、真霜さんはあの店で身体を売り始めることになるってことじゃないか。
「それでね、昨日まで私、20歳になったら首をくくろうと思ってたの。別に将来にだって何か希望があるわけじゃなかったし、自分のせいじゃない借金のために心と体をすり減らしてまで生きる意味なんてないと思ってたから」
「っ!?」
そんなのダメだ! 真霜さんには生きててほしい......。
でもそんな無責任に「生きてほしい」なんて、部外者が軽々しく言って良いことじゃない......。
僕は彼女の人生に責任を持てる立場にないんだから。
僕は何を言葉にして良いのかわからず、軽率に言葉を紡いだりしてしまわないように強めに下唇を噛んで自制する。
真霜さんは、度重なる衝撃的な事実の列挙にあてられて思考がまとまらない僕の姿をしばらく見つめてから、「えへへっ」と表情を崩して笑った。
「ど、どうしたの!? 真霜さん、とうとう壊れちゃった!?」
「ううん、違うの。あ、いや、私は壊れてるのかもしれないけど、そうじゃないよ」
壊れてるの? 壊れてないの!?
じゃあどうしちゃったの!?
混乱する僕に真霜さんがその心情を説明してくれた。
「ただね? ナナくんが私の気持ちを慮って、軽率に言葉を発しないようにって考えてくれてるのが、優しいなぁ、嬉しいなぁって思ったの♡」
「......っ。そんな......僕は結局なんにもできないだけだ」
「ううん、そんなことない。全然そんなコトないんだよっ」
優しい表情のままの真霜さんは、両手でそっと僕の手をとって、優しくさすりながら続ける。
「さっき言ったけど、私が命を絶とうと思ってたのは『昨日まで』なんだよ。つまり、昨日、私はその考えを変えたんだよ。なんでか分かる?」
「............僕と、再会したから......?」
話の流れ的に、それが関係してるってことなのかな。
「僕のせいで、辛い人生を歩もうって思っちゃった、とか!? だとしたら僕は......!」
「違う、違うよ! ナナくんと再会したからっていうのはそうなんだけど!」
僕の手を握る真霜さんの手に込められた力が一段と強くなる。
「あのね、私、昔からナナくんのことが好きなの」
..................?
唐突になんの話かな?
でも......。
「......もちろん僕も好きだよ?」
「うーん、ナナくんのはまだ、姉弟として、家族としての『好き』なんじゃないかな?」
「......? そう、だね?」
「私のはね、1人の女としての『好き』だよ。ナナくんのことが男の子として、『好き』なの」
!?!?!?!?!?!?!?
「あはは、やっぱり気づいてなかったんだね。私、昔からわかりやすかったと思うんだけどなぁ。まぁ当時ナナくんはまだ小学4年生だったし、そういうのがわからなくっても仕方なかったのかもね〜」
モ、モモ姉......じゃなかった、真霜さんは何をおっしゃられていらっしゃられていらっしゃるのでしょうか!?
え? 真霜さんが僕のことを好き? 男として?
っていうか今までの話の流れと脈絡なさすぎないか?
あれ? 今なんの話してたっけ?
からかわれてる?
いや、昔の真霜さんを思い出しても、昨晩のやり取りだけでも、彼女がそんな悪趣味なからかいをしないことはなんとなくわかってる。
だとしたら......。どういうこと?
「うふふふふ、混乱してるって顔してるわよ♡」
「こ、混乱してます」
「素直で可愛い♫」
「か、可愛くはないと思うけど......」
「かわいいよっ」
や、やばい、照れるなんてもんじゃない......これ。
って、こんなふうに照れさせて、話を煙に巻かれるわけにはいかないところなんだった!
僕は混乱と羞恥で赤く染まった自分の頬を両手でパチンッと叩いて、自分を無理矢理現実に引き戻す。
「ま、真霜さん! す、好き......とかは一旦置いておいて......その、真霜さんが生きようと思ったって話を続けてくださいっ」
「あ、そうだね、またお話が逸れちゃった。大好きなナナくんとお話してると、ついつい余計なこと喋っちゃうな♫」
......っ。
またそうやってぶっこむ......。
「そんな不満そうな顔しないで? ちゃんとお話するから。えっとね、私は昔からナナくんのことだ男の子として好きだったの。今回再会して、ちょっとお話しただけで、今のナナくんも大好きってわかった。私はそんなナナくんの傍にいることに希望を見出して、生きようって思ったの!」
「そんな......」
す、好きとかはともかく......。
やっぱり真霜さんが茨の道を征こうと思うようになったのは僕が原因なんじゃないか。
「そんな悲しそうな顔しないで? 私は嬉しいの。もう2度と会えないまま死ぬことになるかもしれないって思ってたナナくんと、私の人生を終わらせようと思ってたこんな時期に偶然に出会えて、私が生きる目標を与えてくれた! こんな幸運、普通ないよ! だから私はナナくんにとっても感謝してるんだよっ」
「で、でも......でも、真霜さんは20歳になったら......」
身体を売らないといけないって言ってた......。
ぼ、僕のことが、その......好きって言ってくれて......、自分で言うのもなんだけど......、そんな人がいるときに、好きでもない人と
「ふふっ、ナナくんがしてくれてる心配事、わかるよ。ナナくんを好きなのに、銭湯での裏のお仕事しないといけないなんて可哀想、みたいなこと思ってるんでしょ?」
......読まれているらしい。
まんま思ってることを言い当てられた。
「でもね、心配しないで? 私は大丈夫だから。ナナくんがこの家に泊まっていってくれるってだけで、一緒の時間を過ごせるってだけで、私は頑張れる」
............そんなに穏やかな表情しないでよ。
僕なんかにそんな価値ないよ......。
................................................でも、真霜さんがそんなふうに言ってくれて、こんな僕を部屋に泊めてくれるっていうんだから、僕もなにかしたい。
「僕も、なんとか働いて、一緒にお金返すよ!」
「え!? そんなのだめよ! 私の家族の借金をナナくんに負わせるなんて、そんなわけにはいかないわ!」
「お願いだよ、真霜さん。僕がここに泊めてもらう対価とでも思ってほしい」
「そんな......。私そんなつもりで話したわけじゃないっ。そんなつもりでナナくんをうちに泊めるって言ったわけじゃない! ナナくんは居てくれるだけで十分お返ししてくれてるんだよ!」
すごい勢いでまくしたてる真霜さん。
再会してから一番、僕に対する怒りの感情をぶつけてこられてる。
でも、僕にだって、譲れないところはあるんだよ。
それにこれは僕にとっても、ある意味いい話かもしれない。
「僕のために、真霜さんと一緒にお金を返すことを認めてもらえないかな。ただ受け取るだけなんてできないし、それに......」
「......それに?」
「僕だって、彩咲から逃げてきたは良いけどこれからどうするかなんてビジョンもなくてさ。だから、真霜さんとお金返すっていう目標がないと、僕の方こそ生きる意味が見いだせないかもしれないし......」
「ナ、ナナくん......」
「その代わり......と言ってはなんなんだけど、少なくとも誕生日が来るまでは裏のお店に出るのはやめてもらえないかな?」
「え? そ、それはそのつもりだけど......。でも、どうして?」
「その..................告白してもらって情けない限りなんだけど、今の僕は真霜さんを抱きしめてあげることもできなさそうなんだ......。でも、他の人に抱かれたりする前に、せめて僕が抱きしめられたらなって......。そのときがくるまでに、僕がこの体質を直せたらって、思ってさ......。こんな中途半端な身体のまま真霜さんとお付き合いさせてもらうなんてのも、ダメだと思うから......」
まぁ、それだけじゃ、ないんだけどね......。
「ナナくん! 嬉しい!」
真霜さんが喜んでくれるなら、とりあえず今はそれで十分だ。
実際、今考えてる計画がうまくいくかだって、わからないんだし。
それから僕らはまた夜が更けるまで、お互い会えなかった時間のことを話し続けた。
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