第6話 北風系ヤンデレと朝のひととき2

「どんなお仕置きにしようかなぁ〜。いい加減なぁくんが素直になれるように、脳みそがとろけちゃうおクスリとか、打っちゃう?」


彼女が言うには、『反省したら襲いに行くはずなのに昨晩何もなかったということは、すなわち反省できていない』ということらしい。


いやだからって。

そんな理由で脳ミソ溶かされたくない。


脳がとろけるよう、って言葉は、うっとりしたときとか幸せで恍惚とした状態のことを指す比喩でしかない場合が多いけど、多分彩咲ささのこれは違う。

物理的に脳の容積を縮小させてしまうようなヤバいドラッグを仕込もうとしているに違いない。


だってそういう表情だし、彩咲なら余裕でやりかねないし、普通はデメリットなそれだって、僕が彼女から逃げなくなったり本能のままに行動するようになったりする意味では、しっかり彼女にメリットがあるし。


間違ってもそれをやらせるわけにはいかない。

僕はまだただの動物に成り下がりたくはない。



「僕は自分の意思で彩咲と愛し合いたいな。だから彩咲のためにいろいろ考えられなくなるのは、いやだなぁ」


ちらっと彩咲を見る。

男の上目遣いなんてどんだけ需要があるのかは知らないけど、少なくとも彩咲にはそれなりに効果があることは経験から知っている。



「あぁん♡ 素敵なことを言ってくれるんだね♡ そうだね、なぁくんにはまだ・・正気でいてもらいたいもんね♫」


「で、でしょ?」


「わかったぁ。しょうがないからトイレットペーパーの刑で許してあげる。あ、それじゃあ罰じゃなくてご褒美になっちゃう? まぁいっか♡」


「......ありがと」



トイレットペーパーの刑。

彩咲がよく使う軽い・・罰則の1つ。


手洗いを済ませた彩咲の下半身を、トイレットペーパーの代わりに僕の舌で拭き取るっていう罰。


まじで地獄だけど、痛いのとか、最後の一線に比べたら全然マシ。だと思う。


初めてやらされたときはまだ彩咲のことを素直に好きな気持ちがあったから、普通に性欲もある男子学生だった僕は好きな彼女のアソコに口をつけられることに少しの興奮を覚えたりもしていたけど。


実際舐めてみたら臭すぎるしマズすぎた。


人によってはご褒美というかもしれないし、そんなことをするくらいならいっそヤってしまう方が全然いいって思うのかもしれないけど、僕にとっては精神を保つための最後の砦で、失うわけにはいかない最終防衛ライン。


それに、デザートと称して大きい方も小さい方も、なんなら昨晩のゼリーも含めて、そういうのを食わされるっていうのは珍しくないから、彩咲から直接摂取するか、皿やコップに盛られて摂取するかの違いでしかない。


男のプライドなんてすでに無様にずたずたに切り裂かれて跡形も残ってない僕からすれば、脳ミソを破壊されないための代償にしては安すぎるくらい。

......嫌なのは間違いないけどね。



「どういたしまして♡ 今日は彩咲がおトイレに行くたびに拭き取ってね?」


「うん、わかった。ありがと」



こういうときは謝意を示さないと彩咲の機嫌が悪くなる。

だから、いやいやだけど、感謝の言葉も述べておく。


これが僕と彩咲のほとんど毎朝のこと。





なんで逆らって、力づくで逃げたりやり返したりしないのかって?

ははは、そんなのすでに何回もやったに決まってるじゃないか。


最初は、彩咲の束縛が重いからちょっと手加減してほしいって伝えた。

けど彼女は、『好きなら束縛したいって思うのは普通だよ』って言って、取り合ってはくれなかった。



我慢も限界が近くなってたころ、彩咲が身近にいない隙に彼女の目を盗んで逃げようとしたこともあった。


けど、孤児でなんの力も金も人脈もない僕とは違って、彩咲の家は超がつくほどの権力とお金持ち。


僕が逃げようとしても、彼女の一声で周りの人たちが盛大に動いて、すぐに捕まえられてしまう。


しかも、僕の周りの友達や大人たちは、彼女の策略で『僕が彼女にゾッコンでたまに彼女を嫉妬させるようなことをする男』だって認識していて、助けを求めても『あー、また嫉妬を煽ろうとしてるな?』って優しい顔で、いかにも良いことをしている風な顔で、やれやれみたいな顔で、僕のことを彩咲に引き渡すんだ。


その結果、僕はこれまで何度もあえなく見つかってしまい、その度にスタンガンやらガスやらで眠らされて捕まり、気づいたら拘束されていて、筆舌に尽くしがたい拷問を受ける。




何度かそんなことを繰り返すうちに、いつからか彩咲は学校の時間以外、僕を自宅に軟禁して片時も離れなくなった。


それでもはじめの頃は逃げ出そうとしたりもしたんだ。


でも結局捕まって......。


何度も何度も失敗を経験するうちに、僕は学習性無力感を感じるようになっていった。


完全に諦めたわけじゃないけど、そんな日々の末路が今。



「ふふっ、彩咲もなぁくんも、どっちも幸せになれるお仕置きなんて、ほんとに素敵だよね♫」


「......うん」


心の底から幸せそうな表情を浮かべながら僕に同意を求める彩咲の言葉に、心の奥にくすぶる反抗する気持ちが返事をワンテンポ遅らせてしまう。



「ん? なにか言いたいことがあるの〜?」


「なっ、なんにもないよ! 優しい彩咲のこと、大好きだなぁって思ってただけだから!」


僕の心にもない言葉に、満足そうに『うんうん』とうなずく。





「じゃあ、そろそろおトイレに行ってから、制服にお着替えして、学校に行きましょうか♫」

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