第5話 北風系ヤンデレと朝のひととき1

今日もまたいつものベッドに繋がれた状態で目を覚ます。


昨晩食らった火傷の痕ができるだけ痛くないよう、背中を刺激しないようにうつ伏せで寝ている。

それでも、着せられている手術着のような布が背中にこすれるだけで、焼きごての痕がいまだにヒリヒリと痛む。


こんな腐った状況でも、僕は学校を休むわけにはいかない。



「なぁくぅん、おっはよ〜! よく反省できたかな〜?」


それを聞くなら普通、「よく眠れたかな?」じゃないのか。

ってか、今日も今日とて寝た感覚なんてほとんどないよ。痛みで気絶して起きたら朝だったんだから。


これも彩咲ささの作戦なんだろうな。

僕を常に睡眠不足に追い込んでおくことで、できるだけ正常な判断をできないようにしておくっていう。


わかってるんだけど、それを辞めさせる術は僕にはない。


単純な力比べなら、僕が彩咲に負けるなんてことありえないだろう。

だけど、何年も心と身体に刻まれた恐怖は、彩咲の冷たい目を見ただけで力を出せなくなるくらいにはしっかりと効果をもたらしてしまっている。


昨晩だって、デザートと称して出された経血ゼリーを食べるのを一度拒否してからの圧は尋常じゃなかった。

世の中にはアレをご飯に乗せて食べたいとかほざく変態もいるらしいが、本当に正気を疑うレベルだ。


いや、さすがの彼らも、熟成されたアレは、食えないんじゃないだろうか。



結局我慢して食べても意味はなかったし、背中には新たに『彩咲専用』という火傷痕が刻まれてしまった。

僕はそれを甘んじて受け入れてしまうくらいには、調教されきっている。



せめてもの救いは、彩咲は今まで身体の関係、というか最後の一線を自分から求めてきたことはない。彩咲の方から無理矢理襲ってきたりしたことはないことだ。

なんでも、僕が自分から求めるのを待っているんだとか。


僕、空鷲夏凪晴そらわしななはと、彼女、織女彩咲おりめささは、中学2年で出会って、ある出来事を発端に彩咲から好意を寄せられて、その夏から付き合いだした。


付き合う前はそこまでじゃなかった彩咲のヤンデレムーブは日を追うごとに過激化して、高校3年になった今となってはこの有様だ。


あぁ......あのころは普通に可愛かったのにな......。



......って、いつまでも物思いにふけって返事せずにいたら、反省の意思なしと見做されてまたお仕置きされてしまう。


「おはよう、彩咲。今日もいい朝だね。夜の間にいっぱい反省したからかな、世界が輝いて見えるようだよ」



僕がそう挨拶を返すと、ニパッと輝く笑顔を返してくれる。


「うんうん、自分の行いを顧みれるのはいい子の証だねっ! えらいぞぉ、なぁくん!」



自分を省みるべきなのは彩咲のほうだろうが!


......なんてことを馬鹿正直に言葉にできるわけもなく、あははと笑いを浮かべて従順な演技をすることしかできない。


そんなやり取りをしていたわけだが、ふと彩咲の様子がおかしくなっているような気がする。





「でも、おかしいなぁ」


さっきまでの上機嫌な声とは打って変わって地の底から響くような低い声音に、僕はビクッと肩を震わせる。


「な、なにが......?」


「いやぁさ? 本当に反省できてるんだったら、普通、昨日のうちに彩咲をレイプしに来てないとおかしいでしょ? なんで来なかったの?」


............?


「なんでって、いやそりゃ、こんなふうに鎖で繋がれてちゃ......」


意味不明な暴論すぎるし、繋がれてなくてもいかないんだけどね?


「なぁくんが本当に反省してるならそれくらい当然ちぎれるはずだよ。なのにそうしなかったってことは......。今晩もお仕置きだからね」


嘘だろ......。

彩咲のやつ、とうとう罪を捏造し始めやがった......。

いやこれまでのだって、俺の過失じゃないはずだし、罪の捏造自体は今までと一緒なのか?





「どんなお仕置きにしようかなぁ〜。いい加減なぁくんが素直になれるように、脳みそがとろけちゃうおクスリとか、打っちゃう?」

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