第3話 北風系ヤンデレとデザートの時間

くっちゃくっちゃぐっちゅぐっちゅと、何度も咀嚼音を聞かされ、繰り返し液体を口の中に流し込まれることしばらく。

ようやくお椀に盛られたお粥をすべて消費できたらしい。


精神的にはヘトヘト。

でもお腹の虫は満足そうに、すっかり鳴くのを辞めている。



「ごちそうさまでした」


彩咲の顔を見ながら、できるだけぎこちなくならないよう笑顔で伝える。


「はい、お粗末さまでした!」



......疲れた......。

ご飯食べて疲れるってなんなんだ、本当に......。


ムラムラがやばいけど、自分で処理することは許されていない。

がんばってちょっと眠ろう......。


そう思ってベッドに向かおうとする僕を彩咲ささが呼び止める。


「あ、なぁくん、待って待って」


「ん?」


「今日はデザートがあるの!」



............。


デザート。

彩咲ささが準備する「デザート」がまともだったことは、正直ほとんどない。

ていうか食べ物だったことがほとんどない。


基本的には彩咲から排泄されたものをそのまま食べさせられることを意味しているのだ。


まじで、食べられたものじゃない。


僕は長年彩咲に調教されてるとはいえ、まだ人間性を捨てては居ないし、正気も失っているわけじゃない。......つもりだ。


だけど、彩咲に出されたものを食べるのを拒否したり、嫌そうな素振りを見せたりでもしたら......。


............背中の焼印の痕が微妙に痛んだ気がした。



ともかく、今の僕にできるのは、今日の「デザート」が平和かつ食べられるものであることを切に願うだけ......。










「今日はね〜、なんと先週彩咲が女の子の日になってたから、そのときに採っておいたのを使って、彩咲特製熟成ゼリーを準備してみました〜! どんどんぱふぱふ〜! はいっ」



僕の目の前に置かれたのは、犬用のエサ皿に盛られた赤黒いレバーのようなもの。


その血の塊からは、胃を無理矢理かき混ぜてひっくり返してくるような強烈な生臭さが漂っている。

所々に若干黄ばんだ白いゴミ? 液体? みたいなのもついてる。


そんな僕の視線に気づいたのか、彩咲が補足で説明を加える。



「その白いのはね〜、なぁくんなら気づいてると思うけどぉ、ついでに採取した私のアソコのカスとオリモノだよ〜! 拭き残したティッシュとかそういうのだと思うけど、トッピングに加えてみました!」



まさに「熟成」されたのであろうソレは、不潔以外の何物でもない。

つーか、なんだよ熟成ゼリーって。


ゼリーは熟成させるものじゃないでしょ。


いや、これはそもそも食べ物じゃないんだけどさ。


あぁ......昔食べた普通のゼリーが懐かしい......。





ウッ......オエッ............。


あまりの強烈な臭いに、演技も現実逃避も続けることができずに、思わずえずいてしまう。



「......は? なに、夏凪晴ななは。まさか今、おえってした? ねぇ?」


いつものあだ名呼びが崩れて、僕を脅すとき用の名前の呼び捨てに変わっている。

加えて声のトーンが下がったことに、僕の恐怖心と服従の意思はまんまと押し上げられる。



「うっ、ぷ......。い、いや、そんなことは......」


「またえずいたね。なに? 私のゼリー、食べられないの? ふーん、そうなんだ」



さっきまでの幸せそうな笑顔はなりを潜め、真っ黒な瞳と感情の抜け落ちた表情、地の底から響くような低い声が僕を襲う。

この彩咲の姿を見るたびに、僕の身体は芯から震え上がってしまう。



「ち、ちがっ......彩咲......ごめんなさい、ごめんなさい......許して......」

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