第11話 父の香り
「ハッ……」
声を殺すようなボルドの
昨夜一晩、
数日前までは刺激に
それを感じたのか、ブリジットはその目にほのかな
体だけでなく心まで抱かれる。
ブリジットに言われたその感覚はボルドにはまだ分からない。
だが、彼女の情熱に応えたいという思いがボルドの胸にわずかに宿り始めていた。
それが自分の立場の
だが、ボルドを見つめるブリジットの目は彼の奥底まで見通そうとするかのような深い色をたたえている。
その目を見るとボルドは彼女に
とにかく正直にいなければすぐに
だからボルドは必死だった。
自分を
「ボルド……少し変わり始めたな」
激しい情事の時が過ぎ、夜の
「そう……でしょうか」
そう答えるボルドの黒髪をしきりに
「まだアタシが怖いか?」
それは問い詰めるような口調ではなく、どこかからかうようなそれだった。
怖いかと問われれば怖い。
ほんの一週間前は
ボルドは何と答えてよいのか分からずに口ごもる。
「フン。
そう言うとブリジットは彼の
それから彼の黒髪に鼻を
「ん? 香油を変えたか? これは……父と同じ香りだ」
ブリジットはその香りを
自然とボルドは彼女の豊かな
甘い香水の香りと、ほのかな汗の
その刺激と
決して自分からブリジットに触れてはならないボルドだが、こうも密着していると両手や下半身が
「い、いけません。触れてしまっています」
「アタシが抱き寄せたのだから構うことはない。今さら恥ずかしがるな」
そう言うとブリジットはグッと力を込めて彼の顔に
成すがままにされながら、ボルドはブリジットの声を聞いた。
「昔を思い出す香りだ。父上と同じ髪色、よく似た
ブリジットは決して彼の出自のことを聞かなかった。
子供の頃から
「……お父上のことを愛されていたのですね」
「ん? さては
「も、申し訳ありません。余計なことを……」
そう言って
「ふふ。構わん。我が父上はおまえと同じ情夫だった。先代である母にかわいがられていたよ。アタシも父が好きだった。
そう言うとブリジットはボルドの頭を放し、天井を静かに見つめた。
その言葉で、すでに彼女の父がこの世の人ではないのだとボルドにも分かった。
「母もこのように父を抱いたのだろうな」
ブリジットは少しだけ
そんな彼女の顔を見たボルドは
身分も違う。
つまらない男に過ぎない自分には過ぎた感情かもしれない。
それでもブリジットを元気付けたい。
そんな気持ちが胸に
だが、そんな彼の心を知らずにブリジットはふいに悲しみに襲われたような顔を一瞬だけ見せた。
「ちょうどこのくらいの季節だった。父はあっさりと
「……ご病気だったのですか?」
恐る恐るそう
「いや……処刑されたのだ。
そう言うブリジットの声には怒りも憎しみも感じられなかった。
ただただ
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