第7話 情夫の一日
宣言の儀から一夜明け、夜明けに帰ってきたブリジットはひとしきり眠ると、ボルドにこれといって声をかけることもなく正午前には政務に戻っていった。
主たるブリジットが留守にしている居室では、側付きである2人の
ボルドは
「これは我らの仕事。あなたにそれを手伝わせたとあっては我らがブリジットより厳しくお
昨夜、ブリジットが不在の間、
ボルドにとって唯一の仕事は、ブリジットの
そのため夜の間は起きていることが必須となり、朝食をとった後にブリジットの出立を見送ってから昼過ぎまで眠ることになる。
そして日が天頂を過ぎて午後になる頃に起床した後は遅めの昼食を取り、そこから夕刻にブリジットが戻るまでは待機時間となる。
要するに昼の間は彼にやることはないのだ。
これはボルドを大いに
これまで人生の大半を
働かなくてよい時間を過ごすということは彼には難解なことであったが、
「あなたのお仕事はブリジットのために心身の
ボルドが眠っている午前中のうちに掃除や洗濯を済ませた
ボルドのためにダニアの歴史や一族内の情勢などを理解しやすく話して聞かせる。
そして彼の
特にボルドの黒髪は念入りに手入れされ、
「ブリジットからは特にこの黒髪は大事になさるよう命じられております。ボルド様もそのことをお忘れなく」
初めて彼女と結ばれた昨夜も、ブリジットはボルドの黒髪を指で幾度となく
「黒髪は
そう言う
「彼女の父君とはどのような御方なのですか?」
「先代ブリジットの情夫であらせられました。先代よりこよなく愛され、当代のブリジットも御父上を
その話にボルドは思わず言葉を失った。
一族の長たる女王が情夫の子を産む。
その事実に頭を打たれたような気がしたからだ。
当然、男と女が交われば子が生まれる可能性はおおいにある。
そのことはボルドとて分かっていたが、まさかブリジット自身も情夫を父に持っているとは思わなかった。
そんなボルドの顔色を見た
「情夫はひとときの
そう言うと
「ボルド様。時が来ればあなたもブリジットとの間に子を成すことになるやもしれません」
その言葉にボルドは息を飲む。
運命がこれほど大きく変わっていこうとすることに激しく
「と、時とは……いつのことなのですか?」
「さて。ブリジットがあなたの子を産みたいと心の底から思われた時です。その日が来るかどうかは……今はまだ分かりません」
日の暮れかけた居室の中で
ボルドにとって二度目となる情夫の夜が始まろうとしていた。
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