2:天使キラキラ
「おむつ、してなかったのか?」
人間の男がバタバタとオレの部屋に入ってきた。二人とも白髪交じりの中年だ。老人に近い年齢かもしれない。
「してたけど、おしっこの量が多かったみたい。横から漏れてシーツが汚れちゃったわ」
「わかった。まずはシーツを取り換えよう」
男がオレの痩せ衰えた体を起こし、前から抱えて近くの椅子に座らせた。部屋中にオレの小便の匂いが充満している。
「やれやれ、下の世話はやっぱりきついな」
「寝たきりじゃないだけマシじゃない?」
「そうだな。ヘルパーさん、今日は何時からだっけ」
「三時から」
「じゃあ俺、三時になったら買い物に行ってくるよ」
「ありがと、兄さん」
二人は防水シーツを剥がしたり、オレの下半身を濡れタオルで拭いたり、新しいおむつを履かせたり、テキパキと動いてオレの失態を片づけた。
男がオレの耳元で、大きな声で言う。
「おじいちゃん、また横になる? それともしばらく座ってテレビでも見る?」
よくわからないので、オレはわずかに頷いた。
「あー、どっちかわかんないな。ヘルパーさんが来るまで座ってテレビでも見てろよ」
「今日はヘルパーさんがお風呂に入れてくれるって。良かったわね。すっきりするわね」
女の言葉にオレはまた、わずかに頷いた。
二人が部屋を出て行った後、オレはテレビのワイドショーを見ていたが、やがて掠れた細い声で「おぉい、天使」とやつを呼んだ。この体はがんばらないと声が出ない。
「はいはーい」
陽気な天使がキラッと空中に現れる。
「おい、オレは、誰に変身したんだ」
問うと、天使はうふふと笑った。
「誰って、猫さんの飼い主さんですよ。この家で一番長生きしてる、おじいさんに変身したのですー!」
「やっぱり、この体は、飼い主のじじいか!」
「あのね、猫さんは25歳でしょ? 人間に換算すると116歳なの。それでね、猫さんの飼い主さんは116歳のおじいさんなの。ちょうどぴったりなの。変身するならやっぱりこのおじいさんがいいなって思ったのです。素敵な変身でしょ?」
「素敵じゃ、ねえ!」
オレは苦虫をかみつぶしたように言った。
この体は猫の体より動かしづらい。小便を漏らした後の処理も大変だ。
「猫に、戻してくれ」
しかし天使はコロコロと笑うばかり。
「まだお礼を言ってないじゃないですか。今なら人語を話せます。願いが叶うのです」
「もう、いい。どうでもいい」
「そんなこと言わずに、さあ、がんばって。変身が解ける前に、勇気を出してレッツサンキュー!」
天使はニコニコしながら小さな拳を突き上げる。
こいつ、おもしろがってねえか?
「なあ、本物のじじいは、どこ行ったんだ」
「それについては心配ご無用です。本物のおじいさんは私が天使の世界へ連れて行きました。そこでぐっすりと寝ています」
「じじい、死んでんじゃん」
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