私が人魚なんだからあなたは王子様に決まってる!!

蜜咲

第1話 王子様に出会うのはいつも突然!

 ゆらゆらと尾びれを揺らし海の中を漂う。海の底にキラキラと挿し込む光はいつ見ても綺麗。

 私は、人間の世界の本を手に取り1ページ目から読んでいく。

「王子様って、本当にいるのかな……」

 言葉が零れるたびに、泡がポコポコと音を立てては消えていった。


「サクラお姉ちゃん! 見つけた!」

 スイっと隣にくっつくように1人の人魚が近付いた。オレンジ色の髪がサラサラと揺れている。


「相変わらず綺麗な髪よね、ヒナの髪は。私もサラサラな髪が良かった」

 自分の髪を指でクルクルと絡める。

「お姉ちゃんの髪もフワフワで可愛いよ?」

「そうかな? 優しい妹がいて私は幸せ者かも……」

「えへへ」

 ヒナは頬を赤くして照れていた。


 ヒナは私の目の前にスイっと泳いで、私の持っている本を指さす。

「お姉ちゃん、またこの本読んでるの?」

「うん、私の理想が詰まってるの」

「また、王子様?」

 ふふっと口元に手を当てヒナは笑った。


「そうだ、お姉ちゃん長老が呼んでいたよ! 私、それを伝えに来たんだった!」

「そうなの? じゃあ行かなきゃね」

 私はそう言い、本をヒナに渡した。

「その本、棚に戻しておいてくれる?」

「分かった~」

 ヒナは手を振り、私を見送っていた。

 海の中を泳ぐ間、私はフワフワと揺れる髪を握りながら顔に髪がかからないようにする。髪が広がると色々なものに絡まったりぶつかったりしてしまう。


「長老、何かありましたか?」

 私は長老の元に行き用件を尋ねた。

「大したことではないのだけれど、少し外の世界に行ってくれないかな?」

 長老は、私に1枚の紙を渡す。紙には何か契約書のような内容が書かれていた。

「私でいいんですか?」

「サクラが一番適任かなと思ったんだけれど、受けてはくれないか?」

「……分かりました」

 私は少し考えてから、返事をした。


 外の世界は人間が暮らしている。そして海には私たちが暮らしている。この関係は昔からずっと続いているらしい。文字の読み書きや、文化、言葉などは暮らしている地域によって違うらしい。私たちが暮らしているこの海は、日本のどこかに位置している。


 私は頼まれた1枚の紙を手に外の世界を目指す。海面から顔を出した瞬間私は1人の男の子と目が合った。


「人魚……?」

「うん、そうだよ。私が珍しい?」

「僕は初めて見た。本当にいるんだね」

 彼は興味があるような視線で私を見ていた。


 私は岸の近くまで泳ぎ、砂浜の上に上がった。尾びれはワンピースと脚に変化する。人間の世界の物語では、この脚を手に入れるために代償を払わなければならないらしい。


「わわっ」

 彼は手で目を覆っていた。

「大丈夫、裸とかではないから。ねえ、あなたの名前はどんな響きなの?」

「響き? 僕は央地春って名前だよ? 人魚さんは?」

 彼は私を見て固まっていた。名前を聞いて身体が熱くなるのを感じる。

「おうじ……? あなた王子様?」

「え……? 違うよ?」

 目の前の小さな男の子に私の胸は高まる。きっと顔は真っ赤になっているだろう。


「私はサクラよ! 王子様!」

「だから、違うって!」

 私は彼の困った顔を見て、何故か心地よい気持ちになった。


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