第3話

高校二年の冬


終業式も終わって冬休みに突入。

12月24日のクリスマス・イブはバイト以外予定はなかった。

真子はと言うと、


「先輩とデートだぜ!」と言って朝からソワソワと落ち着かない様子だった。

「プレゼント♡プレゼントっ♡」

何か貰うことしか考えてない真子を見てふと気付いた。

「真子は先輩に何あげるつもりなんだ?」


一瞬の沈黙。俺の方を振り返った真子が青ざめていた。


「あ、ヤバい……何も考えてなかった」


「やっぱり……」


俺は呆れて溜息をついた。

先輩と真子が付き合い始めて5ヶ月は経っている。どんな付き合い方をしているかは特に話したりしてこないので、俺も口出しをしないが、これは流石によろしくない。


慌てた真子が俺のポータブルゲーム機を手に取り「これでいっか」と呟いた。

「ふざけんなてめえ」

「だって何も無いんだからしょうが無いでしょ!」

「だからってゲーム機渡すやつがあるか!しかもそれ俺のだぞ!?」


そんなやり取りをしてる間に時間は過ぎていき、あっという間に夕方になってしまった。

結局プレゼントは何も買えず仕舞いで時間切れとなってしまった。

仕方がないのでそのままバイト先のコンビニに向かうことにした。


かきいれ時の年末とあってバイトも忙しく、普段より疲れて帰宅した。既に23時を回っていた。


「風呂でも入って寝るか」


そう思って部屋を出ようとしたら、部屋の引き戸が勢いよく開いた。


「たっ、ただいまッ!」


真子が息を切らして帰って来た。

どうやら走って帰って来たらしい。

いつもと違って顔には化粧もしていて大人っぽく見えた。


「あれ?今日は帰って来ないと思ったのに」

「なんでよ?」

「だってイブでしょ?彼氏と過ごすもんじゃないの?」

「す、過ごしたし。でも泊まりとか無理だし」


明らかに動揺している。

きっと嘘だろう。目が泳いでいる。

しかし突っ込んで聞くことではないと思った俺は浴室に向かった。


肩を並べて俺たちは浴槽に浸かっていた。

子どもの頃と変わらない日常的な事だ。

狭い浴槽で二人共に体育座りだ。

真子の太腿に押し潰されている二つの膨らみも随分大きくなった。

まぁ、真子の下着を毎日洗っているので、サイズは勿論知っているが、急激に成長する幼馴染みの胸を見ると少し複雑な気分になる。

当の真子はというと、ずっと黙り込んだまま俯いている。

こんなにも静まり返った浴室は初めてかもしれない。

普段はうるさいくらいなのに。

そんなことを考えていると突然、真子が喋り出した。

まるで自分に言い聞かせるように。


「先輩とさ……ホテル行った」

「そっか」


そんな事わざわざ言わなくてもいいのに。

驚くところなのか?なんて言っていいか分からない。


「でも逃げて来ちゃった」

「え?」


どういうことだ? 逃げた?どうして? 疑問符ばかり浮かんでは消えていく。


「先輩と部屋に行ったんだけどね、なんか怖くなって……。それで飛び出してきちゃった」

「おいおい大丈夫かよ」

「うん……多分ダメかも」


先輩がシャワーを浴びている隙に慌てて逃げ出したらしい。俺はとっくに先輩と真子はそれくらいの事していると思っていただけに余計に驚いた。


いつものように二人で風呂を済ませた俺達は部屋でちょっとしたクリスマスをした。

2個入りのショートケーキにフライドチキン。


「イブ終わっちゃったね」

「ん、そうだな。家族のクリスマスは25日だからいいんじゃない?」

「そっか、そうだね……」

「母さん達は東京だっけ?」

「うん。元アイドルのディナーショーだよウケる」

「美味いもん食ってるんだろうなぁ」

「私も美味いもん食べたよ。レストランだけどさ。プレゼントも貰ったし」

「それは返しなさい」

「えぇ〜、せっかく貰ったのに?」

「返しなさい」

「うぅぅぅ……ちょっと電話して聞いてみる」

「今は止めてあげて!絶対傷ついてるから!」

「む……わかった。その代わり今日泊まってっていい?」

「何故そうなる?」

「クリスマスっぽい事したいし……」

「今してるのクリスマスっぽい事なんだが?」

「いや……だからさ……性の6時間ってヤツとか」


珍しく顔を真っ赤にして真子が呟く。

あぁ……そういう事かと理解する。

真子が先輩と付き合い始めてからは、俺と真子はそういう事はしなくなった。

別れたんだから解禁にしたいのだろう。


「わかったよ……」

「じゃあ早速しよっ♡時間ないぞ!」

「はぁ?まだ零時過ぎだから……」

「だって6時間もするんでしょ?直ぐしないと朝じゃん」

「真子それ間違って……うわっ」


俺は押し倒されて馬乗りされた。

そして強引に唇を奪われた。微かにショートケーキの苺の味がした。

高二の冬。俺たちは再び一つになった。


あれから時は過ぎて、真子は東京の国立大に入学し、東京で一人暮らしを始めた。

俺は地元で就職した。

生まれて初めて離れ離れになるのが辛かったのか、別れの日は珍しく真子が泣いた。


まぁそんな別れから1ヶ月後のゴールデンウィーク。俺の部屋に真子がやって来た。

すっぴんだった高校時代とは違い、すっかり垢抜けて綺麗になっていた。


「久しぶりっ」

「え……帰って来んの早くない?」

「なによぅ!ママ達が旅行で留守だからって、聖司の事頼まれてわざわざ東京から来てあげたんだけど!」

「別に小学生じゃないんだから一人でも平気だっての。それに東京そんなに遠くないだろ。1時間とちょっとだろ」

そう言うと、真子は呆れた顔で溜息をついた。

どうせまたアホだとか思ってるのだろう。

相変わらず失礼な奴だ。

しかし本当に久しぶりに会う真子は昔とは比べものにならない程、大人っぽくなっていた。

元々美人だったが更に磨きが掛かっている。

以前のようにベッドに腰掛けると、使い古したベッドが軋む。その上で何度身体を重ねただろうか。セックスを知ってしまった高二から卒業まで、数え切れないほど抱いて、その度にお互い求め合った。

だけどそれは、恋愛のようなものではなく、遊びの延長みたいなものだった。


「いい加減このベッド買い替えたら?軋み方が異常じゃない?」

「別に寝れればいいだけだから問題ないよ」


俺一人寝るだけのベッドになったが、真子との思い出が詰まっている。

だから捨てる事はできない。


「私もこっち帰って来た時に寝るんだから言ってるの!狭いし臭いしギシギシうるさいし。そうだ今からベッド見に行こう!」

「自分の家で寝ろや」

「私の部屋のベッド、東京に持って行っちゃってないの!」


真子は昔から勝手なところがある。

いつもこうして振り回されていた気がする。結局ベッドを新調させられた。

それから毎月必ず帰って来ては俺の部屋で過ごした。


それから数年が経った。正確には四年だ。真子と俺は22歳になっていた。


「真子さん。ここは何処ですかね?」


「またそれ聞く?ボケるには早いよ、おじいちゃん」


「誰がおじいちゃんだ!」


「ここは結婚式場、貴方は新郎、私は新婦。今から結婚式なんだよ聖司くん♡」


「なんで結婚するの?意味分からん」


「なんでって、お腹に君の子がおります。だからだよ!」


「え……だってピル飲んでたじゃん」


真子は生理が重いらしくて昔からピルを服用している。だから俺は避妊具を使った事がない。


「だから飲み忘れたって言ってたのに、聖司酔って出しちゃった時あったよね?憶えてない?」


「あー……あった様な気もしますね……」


「て言うかこの話、何度させるわけ?いい加減認めなさいよ!私たち……家族になるんだよ?」


 家族……俺達は家族みたいに一緒に育ってきた姉弟みたいな幼馴染。一緒に性に興味を持ち、一緒にゲームする感覚で体を重ねていた。恋人ではなかった。


結局、付き合ってはいなかったのだけど、隣りにいるウエディングドレス姿の真子は凄く綺麗で、結婚すると言うよりは、嫁に行くんだな。としか見えてない。


ただ、真子はとても嬉しそうに笑顔を祝福してくれている友人達に見せている。



これからも、この笑顔が変わらず隣りにあるのかと思うと、それはそれで、良いのかもしれない。


「ねぇ、聖司。愛してるよ……」


 「ああ、俺も愛してるよ」

「…………なにそれキモッ」

「おい!お前が言えって顔してたから言ってやったんだが?」

「ふふっ……冗談よ。幸せになろーね聖司♡」

真子の笑顔はあの頃から変わらない。

だから俺は今も安心できる。家族のように育ったから、俺は真子に恋をしなかったけど、そこには間違いなく愛は合った。

そんな気がした。


高校時代のクラスメイト達が押し寄せて来る。

「お前ら付き合ってたなんて驚きだな!」

口々に好き勝手言いやがる。

幼馴染だって事すら誰にも言ってなかったからな。

だけどこれだけは言わせて欲しい。


「「付き合ってはないから!」」


何故か真子と声がハモってしまった。

まぁ、そんな感じで俺たちは本当に家族になった。


~完~

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それでも俺達は付き合ったりしない。 紫電改 @sidennkai

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