第2話
高二の夏。
期末テストが終われば夏休みが待っている、天国の前の地獄期間。
絶対に赤点を取りたくない俺は不本意ながら真子に勉強を教わっていた。
「普段から勉強してればこんな事にならないんだよ?馬鹿な弟だよ全く」
「勉強はやらなきゃいけない時にやればいいんだよ。それに俺は弟じゃない」
成績は常に学年1位でスポーツ万能。チート女子の真子が勉強しているのを見た事がない。毎日俺の部屋でゲームして飯食って、風呂入って、やる事やって帰る。
吹奏楽部に入っている。吹部を選んだ理由が「なんか楽そうじゃない?」とか言って数多くの運動部の誘いを蹴って吹部に入った。実際、吹部は楽じゃないはずだが、真子は「超楽チン」と言って認めようとしない。
「もう休憩にしない?」
「まだ始めて10分も経ってないし、それって普通俺が言うセリフじゃない?」
「だって見込みの無い聖司に教えても無駄でしょう?猿に一生懸命、言葉教えても喋れるようにはならないのと同じ」
「例えが酷いな!俺は猿じゃないぞ!」
「いっつも猿みたいに腰振ってるじゃない。馬鹿の一つ覚えよ!このド下手くそ!」
「あぁ?真子なんてそれでアンアン言ってるだろうが!無駄にうるさくて絶対外に聞こえてるからな!」
「そ、そんな事ないし!全部演技だし!こっちは良かれと思って気持ちいいフリしてあげてんの!」
「演技?!じゃあ何か?俺のベッド汚したのはわざとか?だとしたらお前とんでもなねぇな!」
「……もう絶対、聖司としない!」
「あーはいはい、もうしたくもないよ!」
それから2時間後、ベッドで汗だくになりながらも、お互いの身体を貪った。
何回か達した後、真子は俺の上で意識を失う様に眠りについた。
俺も疲れ果てて、そのまま寝てしまいそうだったがふと気付く。
どんなに喧嘩しても、離れられない腐れ縁。夏休みになれば朝昼晩は一緒なわけで、だからこそ余計に恋愛とかには発展しないのだ。
20時頃まで勉強をしていると起き出した真子が目を擦りながら、話し出した。
「私に彼氏とか出来たらどうする?」
突然の話だが、今まで考えた事は何度かあった。真子はモテる。とにかくモテる。
学校の恒例行事かと思うほど、頻繁に告られる真子だ。俺のクラスの男子も数人は振られているだけじゃなく、一年の時に担任の先生にまで告られた経験を持つ。
だから何時彼氏が出来てもおかしくはない。だが、俺の答えは決まっている。
「真子に彼氏出来ても俺たちは変わんないだろ」
家族同前の幼馴染に恋人が出来ても、疎遠になるわけじゃないし、これからも姉弟みたいに居るんだろう。
「……そっか」
真子は少し嬉しそうな顔をしていた。
「なんで急にそんな事聞いたんだ?」
「ちょっと告られたんだけどさ……」
「いつもの事じゃないか。それで?」
「まぁ……迷ってる」
珍しい事もあるもんだ。今まで全ての男子をその場でお断りしてきた真子が返事を持ち帰り、迷うと言うミラクルが発生した。
「真子が迷うなんて珍しいな、誰に告られたんだ?」
気になるじゃないか。真子を迷わせるほどの逸材が誰なのか。
「サッカー部の古房先輩」
「あぁ……あのイケメンの……」
真子が学校一の美少女なら、その先輩は学校一の美男子と言っていいほどの人物だ。
サッカー部の主将でイケメン。モテないわけがなく、いつも女子に黄色い声援を浴びる、俺からすれば殺したいランキング一位の男でもある。
「そいつと付き合うのか?」
「ん~……正直、古房先輩の事は嫌いじゃないけど、そういう対象としては見てなかったかな」
「へぇ……でも、なんで今になって?今までだって告白されてたじゃん。今回に限ってどうしてなんだ?」
「えっとね……先輩の家、凄いお金持ちなのよ。古房総合病院よ?ヤバくない?」
あっ、コイツ金目当てだ。
イケメンとかそういうのじゃなくて、金持ちだから迷う。確かにウチらは裕福な家庭じゃない。
「金持ちだから迷うの?」
「あたりまえでしょう?もし付き合ったら、色々買って貰えそうだし、デートなんて多分、豪華客船で世界一周とかしそうじゃない?」
もう何か買って貰えると思っているらしい。それに高校生が世界一周してる時間は無い。
「今夏だから、先輩卒業までに別れるとして……クリスマスと誕プレは貰えるか……あっ、お年玉って彼氏から貰えるかな?」
「真子さん?本音が出てますよ?」
「……」
「別に付き合いたいって訳じゃないんでしょ?だったら断るしかないんじゃないの?」
「うん、やっぱり断った方がいいよね。お金に目が眩むなんて私らしくないし、聖司がそう言うなら……」
「それが一番だよ」
夏休みに入った日に真子は先輩とつきあいだした。
バイト三昧の夏休み、俺は朝から夕方までコンビニのバイトだった。涼しい店内でのバイト終わりの帰路は今日一日分の汗が慌てて出て来たのか、家に着く頃には汗だくだった。着くなり汗で張り付いた衣服を洗濯機に放り投げてシャワーで汗を流していると、浴室の扉が勢いよく開く。
「ちょっと自分だけシャワーとかずるいし」
普通に全裸の真子が入って来た。
俺たちは余程時間が合わない限りはいつも一緒だ。当然風呂も一緒に入っている。
「入って来んなよ。彼氏いるのに変だろやっぱし」
「はぁ?別に関係なくない?なんで彼氏出来たからって家族との寛ぎの一時まで侵食されたなきゃいけないのよ!」
「寛ぎの一時だったんだ……」
「とりあえずシャワー交代ね」
そう言って真子は俺の頭からシャワーを浴びせて、シャンプーで髪を洗い出す。自分でやるよりも気持ちいい。
真子の髪は長い。手入れが面倒くさいと言いながら、毎日俺が洗っている。
いつも通り身体も俺が洗う。背中を流す度に成長している胸と尻を見ると、女性らしい身体になったなと思う。
いつもと変わらない日常。家族として認識している真子に対してそれ以上の特別な感情はない。
脱衣場で身体を拭いた後、着替えもせずに全裸で脱衣場を出て行く真子。
「お前さ、着替えは先に持って来てから風呂入れって」
「聖司が用意してくれればいいのに」
「なんで俺が真子の履くパンツまで選ばなきゃいけないんだよ」
「聖司の好みの履いた方が色々と都合よくない?」
ドキッとしてしまう事を急に言い出し、それに対して何も言い返せない。
「ねぇ、あんたさ、彼女とか作んないの?」
俺のベッドにすわり、アイスを片手に持ってテレビを見ながら突然聞いてきた。
相変わらず下着姿で。
「自分に彼氏出来たからって上から目線な発言にしか聞こえないな」
「何怒ってんの?お姉ちゃんに彼氏出来て寂しいのかな〜?」
「違ぇし!誰がお姉ちゃんだよ!」
「私の方が誕生日早いもんね〜」
「はいはい、そうだな。家ではだらしない姉様だよ!彼氏が見たら驚くだろうな!」
学校では清楚でおしとやか。男女問わず憧れの女生徒。家ではパンツ一丁でアイスかじってる姿を誰が想像出来るだろうか?
「先輩に見せるわけないし。聖司にしか見せないし」
不意打ちの殺し文句。照れ隠しで言った言葉にまさかそんな返しが来るとは思わなかった。
「アイス半分食べる?」
「うん。食べる」
ポンボンと真子がベッドを叩き、隣りに来いと合図をする。
アイスに釣られたのか真子に釣られたのか俺は隣りに移動した。
食べかけのアイスを口に放り込んだ。
「明日先輩とデートだからさ、幾らかお金貸してくれない?」
「はぁ?」
「ほら、いくら先輩がお金持ちでもさ、全部出して貰うのは悪い気がするし。出すフリだけで乗り切るつもりだったけどさ」
「最悪だなお前。先輩が不憫でならないな」
「うっさい。だから小遣いちょーだい。三千円くらいでいいから」
「いやいや、ダメだって。先輩にも失礼だし」
「じゃあ五千……二万……いや、四万円」
「増えすぎだって」
「さんざんエッチさせたじゃん!」
そう言われると弱い。真子とは数え切れないほど肌を重ねてきた。そしてそれをこう言う時に言ってくるのも分かってはいた。
結局、真子に押し切られて、デート代にと財布から金を抜かれてしまった。
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