それでも俺達は付き合ったりしない。
紫電改
第1話
雨の鬱陶しい六月は陽が沈んでもまとわりつく蒸し暑さで、窓を開けるか閉めるか結構迷う。そんな季節だ。
風呂上がりに冷蔵庫の麦茶を一気に飲み干して自分の部屋に戻ると、部屋の主である俺を差し置いてベッドを占領しているのは、幼馴染の小野真子だ。
真子とは母親同士が親友で、お互いシングルマザーでもあったため、姉弟のように育った。家も同じ団地内で近い事から、寝る以外の時間は殆ど俺の家に居る。
夜遅くまで働く互いの母親が帰らないので、夕飯はうちで食べて、風呂まで入ってから寝る寸前まで俺の部屋で過ごす真子は高校も同じだった。
俺、飛田聖司と小野真子は幼馴染だと言う事は学校の誰も知らない。
何せこの真子は学校一の美少女で成績優秀、運動神経抜群、人望も厚い人気者。
それに対して、俺は陰キャではないけど
とりわけ目立つ事なく、成績は下の方で、少ない友人と地味な高校生だ。
「おい真子、パンツ見えてるぞ」
そんな完璧超人みたいな真子が俺のベッドでうつ伏せになり、Tシャツとパンツだけの無防備過ぎる姿で、スマホゲームに興じていた。
「うっさい!パンツしか履いてないんだから見えて当然だし」
そう言いながら身体を起こすと、白くて長い脚が露わになる。
すらっと伸びた足は程よく肉付きがあり健康的で艶めかしい。
しかし、その先には綺麗な形のお尻がある。大きめサイズのTシャツを着ていても分かる豊かな胸の膨らみが揺れる。
童貞の男子高校生には刺激が強すぎる光景だが、真子に対してそんな感情は全く起きない。
「Tシャツ俺のじゃねぇか!」
「タンスにあったから着ただけだし」
「そのタンスが俺のなんだが?」
「私のだって入ってるから、半分私のものみたいなもんでしょ!」
「真子のなんで下着ばっかり入ってるだろうが!たまには持って帰れよ!自分のパンツより真子のパンツが多くなって困る」
「だって洗濯こっちでしてる方が楽だし」
だからと言って俺のタンスは真子に占拠されすぎている。
「お前洗濯しないじゃん。洗ってやってるの俺だぞ?」
「私のパンツ洗えてるんだから感謝しなさいよ!本来ならお金とれるレベルよ?」
「手洗い結構手間なんで遠慮したいレベルだよ!」
そんなやり取りをしながら、真子はスマホを置いて俺の部屋に置いてある漫画を読み始める。
いつもの事なのでもう慣れっこだ。
家族同前に育った俺たちはいつも一緒だった。同じものを食べて、同じものを見て、同じものに興味を持った。
それは、性への興味だった。
「いい加減帰れって」
もう夜九時だ。良い子は寝る時間だ。
明日も学校あるし、バイトだってある。高校生も忙しいのだ。
「なんで早く帰らそうとするの?変くない?まだ21時だし」
「ほら、だって……お前朝練とかあるだろ?」
真子は吹奏楽部だ。数多くの運動部からの誘いを無視して何故か吹部に入った。
未経験のくせに二年になった真子は時期部長とさえ言われている。チートか。
「怪しい……なんか隠してる?」
真子の大きな瞳が真っ直ぐ俺を見つめた。
宝石のように輝く瞳は吸い込まれそうになるほど美しい。
昔からこの目に見つめられ、嘘や誤魔化しが効かない事を俺は知っている。
幼馴染としてずっと一緒に育ってきたせいなのか、俺の性格を熟知しているようで、どうすれば動揺させられるのかも分かっている。
「別に……何もないよ」
俺はほんの一瞬だけ真子から目を逸らしてしまった。チラッと机の引き出しを見たのを真子が見逃すはずはなかった。
「ここか!」
「しまった!」
真子がベッド脇の机の引き出しに素早く手を伸ばし【ソレ】を奪われた。
「えっちな本発見!」
「返せよ!」
「ふーん……聖司くんも男の子だねぇ」
「ニヤニヤしながら言うんじゃねえ!」
「どんな女の子が好きかなぁ?」
「うるせえ!いいからさっさと帰れ!」
「まあまあ落ち着きなさいよ」
パラパラと薄い本をめくる真子。
苦労して手に入れた秘蔵の一冊を奪われた俺は必死に取り返す方法を考える。
しかし、俺の思考を読んだかのように、真子はページを開いて見せてきた。
そこには黒髪ロングの清楚系美少女が載っていた。
「これ私に似てない?」
「に、似てねぇよ!」
確かに似てると言われれば似てるかもしれない。真子も中身はアレだが、黒髪ロングの清楚系美少女だ。
「私の方が可愛いし、スタイルいいし」
真子は自分の容姿が優れている事を知っている。毎週のように告白されては振っている。
そんな真子はこの程度のエロ本なんて目じゃないくらい魅力的に見えるのだろう。
俺は真子が持っている本を取り上げようと手を伸ばしたが、ひらりとかわされた。
そして、真子はベッドの上に座り直すと、脚を組み、その長い脚を見せつけるように組んだ。
「この本は没収ね」
「えぇ?それは酷くない?」
「私に黙ってこんなモノ持ってるからいけないのよ」
普通黙っておくものじゃないの?
エロ本は隠し持つものだと思われる。
ましてや家族にエロ本持ってる事知られる羞恥は健全な男子高校生にとってこの上ない苦痛だ。
「罰として今から私とエッチしなさい」
「は?」
「聞こえなかった?私とセックスするの」
「いや、何言ってんだよ!無理だって!できるわけないし」
「大丈夫!聖司なら出来るわ!童貞だけど!」
「童貞関係ねぇだろ!?」
「童貞捨てさせてあげる代わりに私の処女貰えるんだから実質0円みたいなもんでしょ?それにエロ本にお金出すくらいなら、私にお金渡して済ませばウィン・ウィンの関係じゃない?そうよね?私間違ってる?間違ってないわ、そもそも私と言う美少女が近くにいてエロ本とか量産型のモノに手を出すとか有り得ない。私がまるでエロ本以下みたいじゃない?いえ違うわ、私の方が上。圧倒的に上なの。圧倒的にだからね?だから聖司の性欲を満たすのは私。だから……」
「たから何?」
「私もえっちな事してみたい」
目をキラキラさせながら、俺のベッドの上で正座をする真子。
こうなるともう手が付けられない。
昔からわがままは貫き通す主義で、自分の望みが叶うまで絶対に折れたりしないのだ。
そんな真子に何度も振り回されてきた。
「分かったけどさ……もうすぐ母さん達帰って来るし……また今度って事で」
「秒でイケるっしょ!」
「イケねぇよ!」
「じゃあどれくらい必要なのよ?」
結局、真子は泊まっていく事になり、母親が寝静まった頃に俺たちは初体験を済ませた。
緊張と必死さで慌ただしかった初体験は、女の子の温もりと柔らかさを直に感じた。
それは今まで経験した事のない、心地の良い感覚だった。
翌朝。目が覚めた時には既に真子は居なかった。微かに残る真子の香りとシーツに付いた赤いシミが昨晩の事が夢ではなかったと思い知らされる。
スマホに真子からメッセージが来ていた。
昨晩の超えてしまった一線が俺と真子の関係に及ぼす影響が気になって仕方がなかった。
真子からのメッセージを恐る恐る開くと、そこにはいつも通りの素っ気ない文章があった。
『パンツ洗っといて』
「んだよ!」
俺は床に放置された真子の下着を持って洗面所に向かった。
高二の梅雨。俺たちはまだ付き合っていない。
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