第9話 西と東の宝③


「ルミフィスティア……」


 夜、滞在中使用するように用意された部屋の窓辺に腰を下ろし、片膝を立てて外の月を見ていた。

 口の中で昼間、色々な場所を案内してくれた娘の名を呟く。

 まさか分からないとでも思ったのか? ……いや。オレが至宝だなんて夢にも思わなかったのだろう。ともすれば命も危ない使者の役目を国の切り札にさせるとは。

 だから西の至宝にオレを案内させたのか。人が城内に少ないとはいえ。

 彼女と会話した時、微かにだが感じたもの。懐かしいような問題の正解に辿り着くような、何かがカチッと合わさるような一瞬目を瞠った感覚。

 その感覚を彼女も感じたようで、戸惑った様子の彼女と目が合った。


『あなたは、もしや……』


 言いかけたが途中で周りを気にしてか、ルミフィスティアは口を噤んだ。


(案外聡いのな)


 オレはフッと微笑して自分の口に人差し指を立てて片目を瞑った。

 彼女は頷くと何事もなかったかのように案内を再開した。内心ではオレに聞きたいこともあるだろうに、と苦笑し彼女の背中を見つめて歩いた。

 それからオレに親近感でも持ったのか案内が終わってもちょくちょく顔を見せに来たりしてた。昼寝してた時も丘の下で子供たちと遊んでたし。一緒に遊ばされたし。


 彼女は誰かにオレのことを言っただろうか? 安易に言うことはないだろうが近しい者には話したかもな。まぁそのくらい問題ないが。


 太古の因縁なのか胸の奥がチリチリする。


「厄介だな」


 一度出逢ってしまったら気にしてしまう。任務の邪魔になるならいっそ出逢わない方がよかった。


 もし知っていて案内役に彼女を指名したのなら西(ここ)のお偉方は大したもんだぜ。まぁ最初からオレを帰す気はなかっただろうがね。


 座る窓の縁に置いた剣(つるぎ)、愛刀『黒炎(こくえん)』を抜き放つ。黒い刀身は美しく反って紫の煙を薄く纏っている。(偶然だがオレの髪は黒で瞳は紫なのだ! だからこの刀をとても気に入っている)


「入って来い。気配より殺気を隠してくれよ」


 扉を蹴破って覆面黒服の男たちが入って来た。手に手に得物を持っている。


「さあ、任務開始といこうか」


 穏やかに笑うと、剣を左上段に構えた。

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