揺れる

 燃え盛るビル。さっきから、本当にゆっくりと、揺れが大きくなっていく。まるで大波の中の船のように。これはこれで面白かった。


 渡されたベスト。緊急脱出用パラシュート。確認する。大丈夫。そして、通信機器。


「コントロール」


 どうだ。この火の手の中でも通じるか。


『こちらコントロール。キャッチした』


 よし。通じる。


「エージェントより通達」


『音声を認証した。通達を』


 わたしが誰なのかも、ちゃんと理解されたらしい。音声認証様様だな。


「これは失火ではない。放火だ。何者かが裏で仕組んだ形跡がある」


 ちょっと待機の時間。惜しい。今は一刻の猶予もないのに。わたしが燃え死ぬぞ。


『通信を代わった。俺だ』


 委員長官。たまたまそこにいたらしい。


『放火、なのか?』


「さっき救出された23名の中に、おそらく。います」


『そんなばかな』


「だから逃さないでください。わたしは今から緊脱で死を偽装します」


『了解した。回収が必要なときは言ってくれ。L1部隊を出す』


「大丈夫だと思います、たぶん。この風の強さなので」


『おい。ああ。これだ。上空は北東20メートル、地上に近づくにつれ減衰して地上付近は5から8だ。舞っている』


「変なビル風ですね」


『火のせいだな。下はキャンプファイアもびっくりの大焚火状態だよ』


「ありがとうございます」

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