教室にて

「なんだそれ」


 腰までのスカート。半分だけかきあげた髪。派手なヘアバンド。胸近くのボタンを全部開けた制服。


「不良ギャル」


「趣旨変更?」


「まぁ、そんな感じ」


 わからない。バッグも、いやバッグはいつも通りか。中身もいつも通りだなこの厚さだと。


「あなたの隣にいるなら、さ」


 靴も普通。爪も普通。肌も普通。不良ギャルって、肌白くても成立するんだろうか。小麦色とか。そんなイメージ。


「私も、それっぽい感じになろうかなって」


「そっか」


 無理だろ、って言おうと思ったけど、たぶん言う必要すらなさそうな感じがするので、そのまま。









「わたしギャルやめる」


「だよな」


 半日も、もたなかった。

 彼女が弁当のふたを開けながら、髪を戻しボタンを閉めスカートを伸ばす。


「どっちかにしろよ。髪を食うことになるぞ」


「普段と違うことしてておなかすいたの」


 弁当のふた開封を、肩代わりする。

 弁当を開けきった辺りで、いつもの彼女が復活した。清楚。眼鏡はない。


「はぁ」


 彼女が弁当を食べはじめる。


「いただきます」


 自分は、いつも通りなので。いつも通りのいただきます。


「周りの目がだめだった。賞味期限の近い、いかとか、たことか、そんなのを見る目だった」


「あはは」


 いかとたこか。言えてる。まぁ確かに。それはそう。


「いかもたこも買ったことねぇだろ」


「ないよ。でもなんかそんな目だった」


「ちょっと、それっぽかったよ。おまえの感性はただしい」


「うれしくない正解だわ」


 ポッケから、簡易栄養食のおやつを取り出す。クラッシュタイプのやつ。


「これも食うか?」


「食う」


 がっつこうとしたので。


「待て待て。これは腹が膨れるから。弁当食ってから、昼休みが終わる直前に食え」


「じゃあ、それまで持っててよ」


「わかった」


 ポッケに戻す。


「それも食べていい?」


 俺のからあげ。


「いいよ」


「ありがと」


 無言で、作った弁当が彼女に吸い込まれていく。相当のストレスだったのか、彼女は弁当の大半を食い尽くした。


「ごちそうさまでした」


 俺は、いつも通りの、ごちそうさま。あまり食ってないけど、もともとそんなに食うも食わないも気にしない。栄養食おやつもたくさんあるし。


「はぁ」


 満足したらしい。彼女が食い尽くした弁当のふたを閉めはじめる。


「おいしかった」


「それはよかった」


 彼女がおいしかったなら、それでいい。


「おやつちょうだい」


「まだ食うのか」


「食うわよ。午後も見られるストレスに置かれる」

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