本当の画、運のいい女(収録されるか微妙な場面と会話)

「運だけか」


「まぁ、運だけだね」


「そうか」


「やめてよ。子供できるから」


「運がいいからか?」


「うん」


「じゃあできないな。俺が半分混ざるわけだし」


「わかんないなぁ」


「偽者なんだよ。全部な」


「本物じゃない、ってことね」


「だから子供もできない」


「無責任」


「本当じゃないからな」


「なによそれ」


「本当のところは?」


「わからない。本当に、分からない」


「そうか」


「そう」


「本当に。なにひとつとして。分からないもんだな」


「それはいつも思うわ。わたしの運だって」


「いつまで続くか分からない、か?」


「そう。もしかしたら運を使用してるだけで、わたしの手持ちの運が切れたら、その先は、なんて、考えたりする」


「深刻だな」


「深刻よ。何も得られなくなる」


「運だけなんだな」


「意図的に運をわるくすることはできないのよ」


「難儀だな」


「あなたは?」


「あまり考えたことがない。目の前のものが。そして、俺自身が。本当ではないと分かる。それぐらいだ。思っている俺自身でさえも、本当じゃないからな」


「何も信じられないのね」


「まぁな。だから、無心でいたくて、画を描いているんだと思う」


「健気」


「健気か。そんなこと思わなかったな」


「わたしは?」


「ばか」


「ばかかぁ」


「ばかだろ。運がいいのに、運のわるさを気にするなんて。そもそも、そんなに切った張ったの場所にいないだろ。嘘の指輪なんて着けてさ」


「それは、まぁ。そうですけど。これでも人並みに」


「人並みに犯罪でも?」


「なかった。わたし、そんな経験ぜんぜんないわ」


「じゃあ指環もいらないだろ」


「そういうわけにはいかないのよ。性分的に」


「まぁ、理解はできる」


「あなたと違って、本当だから」


「信じられてない時点で本当じゃないんだよ」


「そうか。そうかも」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る