3-12,

 左足と右手が、なかった。

 どこかに落としてきた、だろうか。頭もあんまり、うまく回らない。

 暗がり。路地だろうか。背中。建物の感覚。たぶん、左足と右手から、命が。無くなっていってる。

 夜か。

 曇りだけど、ほんの少し、少しだけ、月明かりを感じる。

 記憶が、曖昧なまま。自分が誰なのかも、よく分からないまま。自分が終わっていく。


「いい夜だ」


 なにが、いい夜、なのか。自分でもよく分からなかった。

 これで終わる。

 さっきまで、立っていたのか、座っていたのか。いま。倒れている。

 うつぶせ。

 月が見たい。

 空を見ていたい。

 そう思っても、もう。身体は動かなかった。

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