No.01「ゴーダイムーベン大陸」

 ここは『ゴーダイムーベン大陸』と呼ばれる場所である。この大陸では大地や森、海など様々な面において豊かともいわれている。


 そして雲ひとつない晴天の中、二頭の馬が大きな馬車を引っ張り、山道を駆け上がっていた。


 その山道は、あまり道が整理されていないのか、ガタガタと馬車が揺れている。馬車を操作している馭者も馬が転ばぬよう、細心の注意を払う。


 しかし、どんなに細心の注意を払っていても、馬車の車輪には溝や石が当たるものだ。案の定、車輪に石が当たり、大きく車内を揺らした。


 普通ならばこのような大きな揺れが生じた場合、馭者は荷物の心配をするはずだ。だが、馭者はまったく気にもする素振りは一切せず、馬を走らせていた。


 それもそうだろう。


 この馬車の中には、。入っているのは、たちとのみだからだ。


 首輪と手錠を付けている者の中には、頭に耳が生えた者やトカゲみたいな見た目をした者など、様々な者が乗っている。


 さらに剣を背中に背負っているいる二名は、片方が赤色の髪で、もう片方が緑色の髪をしていた。


 乗車人数はおよそ、二十人ほどだろう。


 だが、馬車の中にいる者はほとんどが下を俯いていた。剣を背中に背負っいる二名以外、ほぼ全員が絶望した表情や何か諦めたかのような表情などをしているのだ。そのため、馬車の中はかなり空気が重い。


 それもそのはずだ。この馬車は、『奴隷』のみを運送するためだけ。武器を持った二名は、奴隷が暴れた際の対処を任されているのだ。


 言わば、『奴隷馬車』と言っても過言ではないだろう。


 入り口も布で覆われており、外を確認することが一切できない。


 現在、馬車はゴーダイムーベン大陸のに向かっている最中なのだ。


 ゴーダイムーベン大陸では、に別れている。水に豊かな王国や穀物に豊かな王国など、様々な王国が存在していた。


 その中でも、この馬車が向かっていたのはゴーダイムーベン大陸の中で最も栄えていると言われる、『エーヨウ王国』の大都市、『エイカ』である。


 大都市『エイカ』では、貴族の間で雑用や玩具として、奴隷は使用されていた。そのため、奴隷商や盗賊などは人を拐い、貴族に売って金儲けする者もいる。また、親や身内の借金によって奴隷に成らざるをえない者もいる。


 理由は様々だが、馬車に乗っている者たちの全員はこれから、大都市エイカの貴族たちに売り飛ばされるのだ。


 この先、自分はどうなってしまうのか。馬車に乗っている者、大半が自身の運命を嘆いていた。


 しかし、一方でのだ。


 それは全身が傷だらけで、綺麗な長い銀髪をした少女である。銀髪の少女は、ボーッとしながら自身の手に掛けられた手錠を眺めていた。何故、自分がここにいるのか、、少女はずっと考えていたのだ。


 だが、答えなど見つからない。見つかるはずがないのだ。少女には、馬車に乗る前の


 気がついたらこの馬車に乗っていたのである。


 この少女は、馬車に乗る者と比べると異質だった。馬車の中は、ほぼ全員が成人済みの大人で子供はこの少女だけなのだ。


 子供は良心からくるのか、貴族にはあまり好かれない。仕事もあまり出来ないし、あまり良い金にはならないのだ。

 


「ちょっと、そこのガキ」



 突然、小声で話しかけられた少女は、全く気にもせず声がした方へと顔を向けた。


 そこには、黒髪でショートヘアーの女性が隣に座っていたのだ。女性は少女の方を顔を向けずに横目でじっと見ている。その女性は頭に黒色の耳を生やし、褐色肌の女性だった。さらに女性の尻には、尻尾らしきものが生えている。


 その姿はさながら、黒い猫を彷彿とさせた。


 すると、女性は小声で話を続ける。



「あそこの監視しているやつに見つかっちまうから、アンタも小声で話すんだよ。見つかったら、何をされるかわかったもんじゃない」



 少女は終始無言で、不思議そうな顔をしながら女性を見つめていた。話よりも、女性の頭に生えている耳と尻尾に興味を引かれている様子なのだ。


 それを見ていた女性は少し黙ってしまう。しかし、すぐにまた話し再開した。



「……まぁ、いいさ。喋んないのも、それは利口な考えだ。だがね、アンタのようなガキを売るなんて、とんだグズな両親の元で育ったんだね。それにヒドイ怪我だ」



 女性はそのまま、少女を全身を見つめる。こんな所に幼気な少女を売る親は、ただのクズだと女性は思っているのだろう。


 それにそんな理由であれ、こんなに傷だらけなのが不思議でしょうがなかったのである。



「だけど、私も人のことは言えないか。私の名前は『エンリヨ・エジャク』って言ってね。私も友だちの借金の連帯保証人って言うになったら、その友だちが蒸発して残ったのは多額の借金だ。それを返しきれなくなって、今はこの様だよ」


 そして『エンリヨ・エジャク』と名乗った女性は、自身の手に繋がれた手錠を眺めていた。たくさんの後悔があるのだろう。


 だが、少女はというと、エンリヨが何をいっているのかわからずにいたのだ。話が難し過ぎて、少女の頭では処理しきれなかった。


 そのため、無言でボーッと状態を眺めていたのである。


 それを確認したエンリヨは、軽く鼻で笑いながら少女に言った。



「アンタみたいなガキに言っても、わかんないわよね。まぁ、取りあえずはアンタも、変な飼い主に買われないよう天にでも祈っとき」


「おいっ!! さっきからうっせぇぞっっ!! 奴隷は奴隷らしく黙ってろっ!! 次うるさくしたらブッ殺すからなっっ!!」



 そこで剣を背中に背負ってた二名のうち、赤色の髪をした一名が立ち上がって叫んだ。立ち上がると、背中に背負っている剣を掴む。


 その声を聞いた瞬間、馬車の中に居る者たちは怯え、身体を震わせた。


 立ち上がった者は舌打ちをし、悪態を付きながらその場に座り込む。



「ケッ!! んだよ、張り合いがねぇなぁ!」



 そうして馬車の中は、先程よりもさらに空気が重くなった。少女の隣に座っていたエンリヨも、身を小さくし、カタカタと身体を震えている。


 奴隷にされるよりも、殺される方が嫌なのだろう。


 しかし、少女は何事もなかったなのように、キョトンとした顔をしていた。何故、あの人は怒っているのだろ。それぐらいの感想なのだ。


 そして沈黙の重たい空気が流れ始め、しばらくた経った頃である。この頃には、エンリヨの震えも治まっていた。


 だが、少女としゃべる気は、もうないらしい。口を閉じて、ずっと下をうつむいている。


 それもそうだろう。


 次に話しているのがバレたと思うと、想像もしたくない。そのために口を閉ざし、ずっと黙っているのだ。


 すると、その時だった。



「……えっ。う、うぉあ!!」



 馬車の外から、男性の叫び声が響き渡る。



――ドゴンッ!



 次の瞬間、馬車は勢いよく倒れた。馬車の中に居た者たちも馬車が倒れたと同時に、倒れた方へと転がっていく。いったい何が起こったのか、馬車の中からではわからずにいた。


 馬車が倒れ、すぐに何が起こったのか確認するため、全員が馬車の中から出る。当然、剣を背中に背負った二名も馬車の中から外に出ていたのだ。


 しかし、外に出ると目に映ったその光景に、全員が目を疑うのであった。

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