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「気をつけて帰れよ」
クミの待っている四組に向かうタイチの背中に総持が声をかける。
タイチは振り向いて、失礼します、と頭を下げた。
おう、と手を振る総持の姿を見て、タイチはまた振り返り歩を進めた。
慌てて走ったりすればまた総持に何か注意されるかもしれないと、急ぎつつも歩きの姿勢は崩さないようにした。
四組の教室の前、廊下から窓越しにクミに鞄を持ってきたとタイチは身振りで伝える。
四組の教室にはクミ一人きりになっていて、ずっと廊下側を見て待ち構えていたようでクミはすぐに気づいた。
電灯を消してクミが教室から出てきた。
タイチは二組の方に目を向けたが、総持の姿はもう無かった。
職員室にでも戻ったのだろうか。
「どうしたの、射場君?」
「あ、いや、総持先生に会っちゃってさ。早く帰れって注意されたからさ」
クミまで同じ様に注意されるのは流石に可哀想だなと、タイチは思い総持の姿が無いことに安堵した。
「え? 怒られたの?」
「怒られたわけじゃないんだけどさ・・・・・・こういうので注意されて内申点とか低くなったら嫌だろ?」
「射場君、内申点とか気にするんだ?」
「俺は別にいいんだけど、高塚までこんなことで注意されるのは、ちょっと・・・・・・」
ちょっと、の後の言葉が可哀想だとか申し訳無いだとかになりそうでタイチは言葉を濁した。
話したい一心で時間の事を黙っていた自分に言える言葉ではない。
「もう射場君、気にしすぎだよ。文化祭の準備で少し遅くなったぐらいで内申点にまで関係しないよ」
「いや、でも──」
「それに、相手は総持先生でしょ。だったら、なおさらそんなこと気にしなくていいんじゃない? そんなに厳しい先生じゃないでしょ」
クミは少し笑って、いいから行こう、と下駄箱に向けて歩き出した。
そう言われればそうなのだけれど、と思いながらタイチはもう一度総持が居た方向に目をやり、それからクミの後を追いかけた。
下駄箱で靴を履き替え、後門でタイチとクミはまた合流した。
周りに同じ様に下校していく生徒の姿がちらほらとあった。
文化祭の準備をしていた他のクラスの生徒か、部活帰りの生徒か。
ジャージ姿の生徒の姿もあって、タイチは先ほど総持から言われた帰る支度の話を頭に浮かべる。
「それにしても、射場君が内申点気にしてるなんて、意外だなぁ。今日、将来のこと考えてないとかって話してたのに」
「いや、だから、俺は別にいいんだって。その、高塚がさ──」
「うん、それはさっき聞いた。ありがとう、気にしてくれて」
「なんか含みある言い方だな」
「そんなことないよ。素直にありがとうって思ってる」
クミが頬笑む。
すっかり周りは暗くなってきていたがタイチにはその笑顔が明るく見えた。
「高塚は気にしないの? 内申点」
「んー、特に気にしたことないかなぁ。よく聞くのは、大学受験とか就職活動の時には必要だ、って話じゃない? 高校受験でもいるのかなぁ?」
「でもほら、やっぱりそういうの気にして何かしらの委員してるヤツだっているじゃん」
「そうだよね、やっぱり高校受験でも必要なのかなぁ。でも今さら点数稼ぎも遅い気もするけど?」
「稼ぐのは遅くても、減点を避けるのはまだやらなくちゃならないんじゃないかな」
そうだね、とクミが相槌を返す。
あまり納得してる様子ではないことはタイチも感じていた。
タイチも普段は考えてなかった単語なのでクミの気持ちはよくわかった。
考えてなかったので考えてる風にクミの言葉に対して返しているが、それはどれもしっくりとは来ていなかった。
「内申点ってさ、不思議だよね。よくわからないじゃない、何が何点って。テストみたいに配点書いた紙とか渡してくれたらいいのに」
「面白い案だけど、それやったら皆それに従うだけにならない?」
「んー、なるのかなぁ。校則だって守らない人いるし、テスト範囲予め言われてても勉強しなかったりするじゃない?」
クミの言葉に、うぐっ、とタイチは大袈裟に胸を押さえる。
クミがそれを見てまたクスクスと笑う。
「射場君、校則破っちゃう人?」
「違うよ、テスト勉強疎かにする人」
「フフ、一緒一緒」
クミもタイチを真似て胸を押さえ、うぐっ、と唸った。
その動作の可愛さにタイチは一瞬見惚れてしまうが、クミと目があって精一杯笑うことにした。
「ちょっと笑いすぎだって、射場君」
「高塚の動きが面白くてさ」
「射場君の真似じゃん」
「いやいや、高塚の方が面白いって」
少し頬を紅潮させるクミがタイチの肩を叩き、タイチは、ほら、とクミの動きを真似る。
真似の真似を、えー、と抗議しながらクミはもう一度その動きを真似る。
タイチとクミはお互いの真似を笑い合った。
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